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心臓病 心臓病センター榊原病院

心カテーテル治療をする広畑医師(右)

【写真上段左から】吉鷹秀範副院長、山本桂三副院長、杭ノ瀬昌彦外科主任部長、広畑敦内科主任部長【写真下段左から】都津川敏範外科部長、伴場主一内科部長、広瀬英軌循環器内科部長

心臓と冠動脈

30分以内にCCU持つ病院へ -----------------

 さまざまな病気から起きる発作は、命の危険信号。そのとき、どんな症状が表れ、医師の診断・治療はどのように行われるのか。日本人の死因でがんに次ぎ、2番目に多い心臓病は致死率が高く、治療は一刻を争う。

症  状

 胸が焼ける、締め付けられる▽みぞおち、のどが締め付けられる▽左肩が痛む▽冷や汗が出る▽歯が浮くような感じ―などがしたら要注意。冠動脈(心臓を動かす心筋に酸素と栄養を送る動脈)が狭くなる狭心症、血管が詰まって心筋が壊死(えし)する心筋梗塞(こうそく)などが疑われる。

 「心筋梗塞は発作が起きてから30分以内に、CCU(冠疾患集中治療室)を持ち、心カテーテル治療を受けられる病院へ行くと救命率が高くなる」と、岡山大大学院医歯薬学総合研究科の佐野俊二教授(心臓血管外科)は語る。

 命にかかわる心筋梗塞は、胸痛、心電図の所見、血液検査による心筋逸脱酵素の測定で確定診断される。同酵素は壊死した心筋から放出され、血液中で上昇する。血管造影による画像診断で詰まった個所を特定し、心カテーテル治療か冠動脈バイパス手術が必要になる。

心カテーテル治療

 局所麻酔をし、脚の付け根や手首の動脈から細い管・カテーテル(直径約2ミリ)を刺し込む。冠動脈(同3ミリ)まで進め、病変部でバルーン(風船)を膨らませ血流を回復させたり、再び狭くならないようステント(金網状の筒)を留置する。

バイパス手術

 病変部が冠動脈の枝分かれした個所や何カ所にもあったり、高齢者で血管がもろかったりする場合、迂回(うかい)路を作る冠動脈バイパス手術になる。全身麻酔をし、胸を15センチほど切開。太ももか胸の血管を採取し、詰まった個所周辺をまたぐようにつなぎ、血流を確保する。

心筋焼灼術

 脈拍のリズムが乱れる不整脈治療では、カテーテルアブレーション(心筋焼灼(しょうしゃく)術)が有効。心臓を収縮させる電気信号の流れに異常を来し、脈が速くなる上室性頻拍、心房細動などに対し行われる。

 局所麻酔をした脚の付け根や首の血管から、電極を付けたカテーテル(直径1〜2ミリ)を心臓まで挿入。不整脈の原因部位に高周波電流を流し、異常な電気回路を焼き切る。


24時間体制 年間手術400例超 -----------------

 心臓病センター榊原病院は24時間体制で治療し、心臓手術は年間400例超と中四国屈指だ。同病院の救急対応を紹介する。

 ■初期対応 除細動器、補助循環装置、人工呼吸器を備えたCCU(20床)、それに準じたHCU(高度治療室、16床)があり、急患には心電図、血液検査、超音波(エコー)検査などを即座に行う。夜間は循環器内科と心臓血管外科の医師が1人ずつ当直し、緊急時は自宅待機の医師らを電話で呼び出す。

 ■心カテーテル治療 2009年は、1082例の心カテーテル治療を実施し、うち1054例でステントを留置した。急性心筋梗塞では、9割以上に緊急カテーテル治療が行われる。治療時間は30分〜1時間ほどで、狭心症患者は2、3日、心筋梗塞では10日〜2週間で退院できる。

 心カテーテル治療を行うのは、循環器内科の山本桂三副院長、広畑敦内科主任部長、広瀬英軌内科部長ら。山本副院長は「急性心筋梗塞は一刻を争うため、カテーテル治療が適し、身体的負担も軽い」と話す。

 ■冠動脈バイパス手術 スピーディーに、血液漏れがないよう冠動脈を0・5ミリ間隔で縫う手技が発揮される。血圧が低い場合などは心臓の拍動を止め、人工心肺装置を使うが09年、単独冠動脈バイパス手術145例のうち、心臓を動かしたまま行うオフポンプ手術は128例(88%)を占める。「人工心肺装置を使うよりも、より高度な技術が必要。脳梗塞の発症リスクが下がり、術後の回復も早い」と杭ノ瀬昌彦心臓血管外科主任部長。手術時間は3〜5時間ほど。2週間〜1カ月程度で退院できる。

 弁膜症手術、胸部大動脈瘤(りゅう)・大動脈解離手術など心臓手術(09年472例)は、心臓血管外科の吉鷹秀範副院長、杭ノ瀬外科主任部長、都津川敏範外科部長の3チームが執刀。手術には心臓血管外科医3人、麻酔科医1人、看護師2人、臨床工学技士2人が必要で「西日本で3チーム以上は、国立循環器病研究センター(大阪府)と当院だけ」と吉鷹副院長。患者は岡山県内をはじめ中四国、関西、関東などに及ぶ。

 ■心筋焼灼術 手術時間は通常1〜3時間。通算500例の実績を持つ伴場主一(きみかず)循環器内科部長は「体への負担が少なく、術後1、2日で退院できる」と話す。

 ■最新機器 急患には使わないものの、冠動脈検査には08年4月、中四国で初めて導入した320列CT(コンピューター断層撮影装置)がある。心臓全体の撮影は、従来の64列CTでは10秒前後かかっていたが、体の周りをエックス線照射装置が約1秒で1回転し、心臓の立体画像も表示できる。

 広畑循環器内科主任部長は「検査に必要な息止め時間が短縮され、不整脈の患者でも鮮明に撮影できる。被ばく量も従来の約4分の1に減った」と話す。

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薬袋 バイアスピリン
血栓の形成を防ぐ作用


 低容量のアスピリン錠剤。血管を詰まらせる血栓(血の塊)の形成を防ぐ作用があり、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの治療に用いる。アスピリンは100年以上前からある解熱鎮痛薬。少量使用の場合は血小板の働きを抑える。

 通常、成人は100ミリグラムを1日1回服用する。腸で溶けて吸収されるが、副作用で胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍などの胃腸障害が出ることがある。また、解熱鎮痛剤などに過敏に反応し、ぜんそく症状が起きるアスピリンぜんそく患者には使えない。

 カテーテル治療を受けた心筋梗塞などの患者は、再発防止のため服用し続けた方がいい。

(広瀬英軌・循環器内科部長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年08月02日 更新)

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