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(2)人工透析 岡山済生会総合病院・腎臓病センター 丸山啓輔センター長(41)

透析中の患者に話し掛ける丸山センター長。常にコミュニケーションを大切にする

患者最優先の視点忘れず
腹膜透析が6割占める


 この人のような医者が増えれば、医療不信はなくなる、といったら言い過ぎだろうか。それほど、患者と真剣に向き合い、信頼関係を築き上げていく。

 「体はだるくないですか」「何か困ったことはありませんか」

 ゆっくりと、かみしめるように話す問診が丸山スタイル。大きな体だが、威圧感は一切ない。むしろ、包容力を併せ持つ。一番のポイントは、ずばり笑顔だろう。

 「医者って近寄りがたい雰囲気があるけど、丸山先生は違うんよ。優しいし、話もよう聞いてくれる」

 丸山をそう評するのは、60代の女性患者。腎臓病センターに通って約3年。初顔合わせは緊張したが、今は昼食用の弁当を時折差し入れるなど、すっかり打ち解けたと言う。

 高梁市の北部で育った丸山が医師を志したのは中学生の時。幼少時代から通った近所の診療所で、懸命に治療に当たる医師の姿に接したからだ。

 だが、時代は高度成長期。過疎化が急速に進み、若い人がどんどん都会へ出て行った時代で、診療所はほどなく閉鎖された。

 「漠然とでしたが、子供心に何とかしなきゃ、困った人を助けようと考えたんだと思います。今もその気持ちは忘れていません」。真摯(しんし)な姿勢は、日々の診療にも表れている。

 腎臓病が専門の丸山は、4人のスタッフとともに日々治療に当たる。

 腰上部の両側にあるそら豆のような形をした腎臓は、握り拳くらいの大きさで、左右一対。血液中の老廃物や余分な水分を尿にして体外に捨てる働きを持っている。

 だが近年、機能が低下する慢性腎不全の患者が急増していると、丸山は言う。原因の一つが糖尿病性腎症だ。約890万人以上といわれる糖尿病患者のうち、約40%に発症。しびれや知覚まひなどが起きる神経障害、網膜症とともに、糖尿病三大合併症の一つに数えられる。

 治療は食事・薬物療法で血糖、血圧、コレステロールなどをコントロールしていくが、進行すれば腎不全となり、人工透析による治療が行われる。丸山の出番だ。

 人工透析は、週2、3回通院し血液を浄化する血液透析と、1日4回ほど自分で透析液を交換する腹膜透析がある。

 丸山が得意とするのは後者。胃や腸などの内臓を覆う腹膜は、腎臓の代わりになる「ろ過」機能も持つ。この機能を利用し、腹膜内部にあらかじめ埋め込んだ細い管に人肌に温めた透析液を入れ、血中の老廃物や余分な水分を排出する。

 透析を導入する患者を受け入れ、その後地域の病院で治療を受けてもらうシステムを取る同センター。現在、約120人の患者が透析を受けているが、そのうち腹膜透析は約70人と6割を占める。一般的に、血液透析が圧倒的な割合を占めるのに比べ、同センターの腹膜透析の患者数は群を抜く。

 それはなぜか。丸山の説明は単純明快だ。腹膜透析は生活上の制約が少ないという利点があるからだ。液の交換は1回30分程度で、バッグさえあれば患者自身がどこでも容易にできる。「通院が必須で1回につき4〜5時間かかる血液透析に比べ、身体的、心理的な負担は軽い」と言う。

 「PD(腹膜透析)ファースト」。まずは腹膜透析を試みる―という日本透析医学会の提唱がある。患者には選択肢として血液透析だけを示す病院やクリニックが多い中、丸山は「患者の年齢、病状、希望など詳しく聞いた上で、最適な透析法を決める」ことも忘れていない。

 そこからは丸山がモットーとする、患者最優先の視点が見えてくる。 (敬称略)

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 まるやま・けいすけ 高梁高、香川医科大卒。岡山大大学院博士課程修了。国立米子病院(現国立病院機構米子医療センター)、鳥取市立病院などを経て、2006年から岡山済生会総合病院。10年4月から腎臓病センター長。

 趣味 航空ショーの観賞。

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 デメリット 腹膜透析は患者自身が自宅でできるなどメリットがある一方で、カテーテルにより体外と腹膜が直接つながっているため、感染症(腹膜炎・出口部感染等)の危険があるほか、感染予防のため入浴の都度、カテーテルを保護したり、出口部を洗浄する必要があり、入浴がやや不便などデメリットもある。また7、8年で腹膜の機能が落ち、血液透析に移行しなければならないケースもある。

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 外来 丸山の診察は予約のみ。尿量が少ない、尿が泡立つなど腎臓に関して気になることがあれば、内科外来を受診する。初診の診察受付は午前8時〜同11時半。


岡山済生会総合病院
岡山市北区伊福町1の17の18

電話
086―252―2211

メールアドレス
byouin@okayamasaiseikai.or.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年08月16日 更新)

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