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心臓病 倉敷中央病院

除細動器、人工呼吸器などを装備した高規格救急車内。急患搬送時には医師と看護師が同乗し、救命治療に当たる

【写真上段左から】光藤和明副院長、小宮達彦心臓血管外科主任部長、門田一繁循環器内科主任部長、後藤剛循環器内科部長【写真下段左から】藤井理樹循環器内科部長、坂口元一心臓血管外科部長、

急患治療しながら病院へ -----------------

 アジアに開かれた急性期基幹病院を目指す倉敷中央病院。その中心の一つ、心臓病センターは、心カテーテル治療で国内屈指の実績を誇り、高規格救急車を駆使し24時間救命に当たる。同センターの救急対応、機能を紹介する。

 急患搬送に威力を発揮しているのが、動くCCU(冠疾患集中治療室)、「モービルCCU」といえる高規格救急車。救急医療向上のため、国内ではまだ珍しかった1982年に導入。現在2台あり、2009年は岡山県内外へ435回出動した。

 心臓に電気ショックを与える除細動器、心臓マッサージ器、人工呼吸器、輸液ポンプなどを装備。医療機関からの要請に限り出動し、循環器内科医と看護師が同乗、急患を集中治療しながら戻る。

 この日の患者は倉敷市の80代男性。午前7時45分、冷や汗を伴う強い胸痛を覚え約1時間後、救急車で近くの診療所へ運ばれた。心電図に心筋梗塞(こうそく)特有の変化が認められ、高規格救急車が急行した。

 同10時、男性を乗せ診療所を出発。車内で循環器内科医が抗血小板薬を飲ませ、抗凝固薬、降圧剤を注射。本人、同乗の家族に病状を説明、同意書を得て、心カテーテル治療が必要な旨を同病院に電話連絡した。

 25分後、心臓病センター前に帰着。直ちに男性をエレベーターで地下1階に運び、心電図、超音波検査などした後、心血管造影室で同10時40分、緊急カテーテル治療を始めた。

 脚の付け根の動脈から、冠動脈(心臓を動かす心筋に酸素と栄養を送る動脈、直径約3ミリ)に細い管・カテーテル(同2ミリ)を挿入。造影剤を注入し、エックス線撮影すると、左前下行枝の血管が完全に詰まっていた。

 病変部でバルーン(風船)を膨らませ、治療開始から5分後、血流再開に成功。血管が狭くならないようステント(金網状の筒)を留置し、約1時間で終了した。男性は後日、別の部位の治療も受け約半月で退院、元気に暮らしている。

 好結果は発作から3時間、診療所受診から1時間55分後と、早期に血流を回復したことが大きい。「急性心筋梗塞は、医師にかかってから90分以内に血流を再開すれば予後がいい」と光藤和明副院長・心臓病センター長(循環器内科)。逆に受診が遅れると、病状は深刻化する。

 光藤副院長は「治療の遅れは命にかかわる。発作を感じたら、夜中でも遠慮せず、一刻も早く医療機関を受診してほしい」と語る。

「動くCCU」駆使し救命 -----------------

 ■救命体制 05年に完成した心臓病センターは、高規格救急車が帰還する1階から、カテーテル治療を行う地下1階の心血管造影室、2階のCCU(30床=循環器内科系20床、心臓血管外科系10床)をエレベーターで直結させ、救命体制を整えている。夜間は循環器内科医2人、心臓血管外科医1人が当直し、緊急時は自宅待機の医師らを電話で呼び出す。

 ■心カテーテル治療 心カテーテル治療は国内のパイオニアである光藤副院長をはじめ、循環器内科の門田一繁主任部長、後藤剛部長らが行う。急性心筋梗塞などに対する09年治療実績は、国内屈指の1490例、うち1301例でステントを留置した。治療時間は平均40分で通常、狭心症患者は2日、心筋梗塞では8、9日程度で退院できる。

 特筆すべきは、光藤副院長が行う超難度な慢性完全閉塞の治療。動脈硬化のため閉塞し石灰化して硬くなり、治療用具が極度に通りにくくなった血管の閉塞部位をも高度な手技で開通させる。国内外で年間300例以上治療し、成功率は約9割と世界のトップクラス。

 ■外科手術 病変部が冠動脈の分岐部にあったり、急性心筋梗塞により心筋に穴が開いている場合などは外科手術になる。心臓血管外科の小宮達彦主任部長、坂口元一部長らが執刀し、09年手術(腹部大動脈瘤(りゅう)手術含む)は弁膜症手術、胸部大動脈瘤・大動脈解離手術など420例。冠動脈バイパス手術108例のうち、単独のバイパス手術は46例で心臓を動かしたまま行うオフポンプ手術は35例(76%)。

 心臓から血液を運ぶ大動脈にこぶ状の膨らみができる大動脈瘤では、07年からステントグラフト治療を開始。09年は胸部27例、腹部28例を実施し、坂口部長は「開胸・開腹による人工血管置換術に比べ、体への負担が少ない。胸部の治療数は中四国一」と言う。

 ■不整脈治療 脈が速くなる上室性頻拍、心房細動などの不整脈では09年、藤井理樹循環器内科部長らがカテーテルアブレーション(心筋焼灼(しょうしゃく)術)を219例行った。脚の付け根の血管から、電極を付けたカテーテルを心臓まで入れ、不整脈の発生部位を高周波電流で焼く。

 致死的な心室性不整脈、重症心不全患者には、心臓内に発作時、電気刺激を与える植え込み型除細動器、両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器などを入れる治療を09年73例行っている。

 ■最新機器 5月、最新鋭の固定型血管造影装置を備えた「ハイブリッド型手術室」を中四国で初めて導入。CT(コンピューター断層撮影)による患部の立体画像をその場で映し出せる機能も持ち、カテーテル治療と外科手術に対応できる。

 厚生労働省から大阪大、榊原記念病院(東京)とともに治験実施施設に認定され、大動脈弁の開放が制限される大動脈弁狭窄(きょうさく)症の新治療に取り組む。脚の付け根の動脈などからカテーテルを入れ、人工弁を埋め込む治療法で「開胸手術が難しい高齢者らに有益」と後藤部長は話す。

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薬袋 パナルジン、プラビックス
狭心症、心筋梗塞に効果


 共にチエノピリジン系の抗血小板薬で、血栓の形成を防ぐ作用がある。パナルジンは狭心症や心筋梗塞で、プラビックスは不安定狭心症や一部の急性心筋梗塞で、心臓の冠動脈にステントを留置した場合に、血管が詰まらないようにするため内服する。抗血小板薬アスピリンとの併用で使われる。

 パナルジンは慢性動脈閉塞症や虚血性脳血管障害(脳梗塞など)の治療、プラビックスは同血管障害の再発抑制にも用いられる。

 内服期間は冠動脈にステントを留置した場合、通常は1年間だが、患者によっては期間が異なる。内服の中止が、ステントを入れた部位の閉塞につながる場合があり、休薬の際は担当医に相談してほしい。

(門田一繁・循環器内科主任部長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年08月16日 更新)

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