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(4)認知症 川崎医大病院・脳神経センター神経内科 砂田芳秀部長(53) 

患者を診察する砂田部長。患者の目線に立ち丁寧な問診を続けている

画像で診断、投薬治療
患者、家族と強い信頼関係


 「ここに来ると元気がもらえる。先生にお会いできることが心の支えです」

 脳神経センターの診察室。9月上旬に診察に訪れたアルツハイマー型認知症を患う80代の男性患者は砂田の手を取り、喜びをこう表現した。男性は頭を何度も何度も下げ、退室していった。

 柔和な表情で患者を診察室に迎え入れ、丁寧な問診を続けてきた砂田には、こうした“ファン”が少なくないという。

 「調子はどうですか?」「困ったことは?」。電子カルテのモニターから目を離し、砂田が問いかけると、吸い込まれるように近況や症状を報告する患者たち。

 「あの…」。言いにくそうな患者を見れば、いすを前に出して「何?」と聞く態勢に。患者がぽつりぽつりと語る言葉に真摯(しんし)に耳を傾ける。

 砂田と患者や家族の間には強い信頼関係が築かれているようだ。

 「いつも落ち着いていて頼りがいがある」。患者と病院スタッフの砂田を見る目は同じだ。毎週木曜日の外来でコンビの櫛田隆太郎医師や宇佐川桂子看護師は口をそろえる。

 砂田が神経内科医を志したのは1985年。岡山大医学部を卒業後、国立病院医療センター(現・国立国際医療研究センター)で、後に東京大教授となる萬年徹氏の薫陶を受けた。「MRI(磁気共鳴画像装置)などない時代。医療用ハンマー一つで、多くの病気を判断する臨床力に驚き、ぜひとも師事したいと思った」と振り返る。

 以来、東京大、帝京大などを経て川崎医大病院に腰を据えてからも一貫し、パーキンソン病、筋ジストロフィーなどの脳神経にかかわる難治性の病気と対峙(たいじ)してきた。

 「『診てほしい』という患者は全員診てあげたい。筋ジスなどの研究も手掛けているため、なかなか難しいですが…」と言うが、砂田が受け持つ患者は年間800人に及ぶ。

 「認知症」にはさまざまなタイプがある。患者が最も多いのがアルツハイマー型で、200万人と推定される国内患者の40〜50%を占める。大脳の広い範囲に老人斑(しみ)ができ、神経細胞が変性することで発症。患者の多くは高齢者だが、65歳未満で発症する「若年性アルツハイマー」もある。

 アルツハイマー型と同様に神経細胞の変性による認知症には、変性が起こる部位が異なるピック病(前頭葉)、びまん性レビー小体病(後頭葉)などがある。脳梗塞(こうそく)などによる血管性認知症もあり、血管性と変性が混合するケースもある。

 2009年に川崎医大病院で診察を受けた患者のうち、アルツハイマー型が50%、血管性が9%で、その混合型は7%。アルツハイマー予備軍と言われる軽度認知機能障害が8%などとなっている。

 「認知症の治療は原因を究明することから始まる」と砂田。このために外来でまず行う検査が「長谷川式簡易知能スケール」と呼ばれる問診だ。年月日や医師が示す三つの単語の記憶力などを試した後、画像検査へ。川崎医大病院ではMRIに加え、測定した脳の血流量を正常値と比較し、細胞が変性した部分をカラー表示する画像検査「脳血流シンチ」を実施。これらの結果を総合し、確定診断を行う。

 アルツハイマー型と診断されれば次は投薬治療で、薬はドネペジル(商品名アリセプト)。一度変性した細胞を元に戻すことはできないが、アリセプトは認知症の進行スピードを抑えることができるという。

 「アルツハイマーの治療は一に早期発見、二にアリセプト、三に家族の正しい理解と知識。いずれが欠けても成り立たない」と砂田は説明する。

 では、家族の正しい理解と知識とは何か。

 認知症になると、患者は「ごはんはまだ?」などと同じ言動を繰り返すことが多い。

 「記憶障害が引き起こす行動に、家族が感情的に対応すれば病気の進行を早めてしまうこともある。家族が病気を理解し、ともに闘う心構えを」

 そう言う砂田はまぎれもなく、患者の“家族”の一員だ。(敬称略)

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 すなだ・よしひで 広島県立三原高、岡山大医学部卒。東京大医学部脳研神経内科に入局し、帝京大医学部講師などを経て、1999年から川崎医大神経内科学教授。2009年から副学長。趣味は読書や音楽鑑賞。

 ドネペジル アルツハイマー型認知症の進行を抑制する薬。1999年から販売され始めた。錠剤、細粒などがあり、症状に合わせて処方される。世界70カ国以上で承認されており、広く普及している。副作用はほとんどないが、まれに下痢や胃の不調を訴えるケースもあるという。

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 外来 砂田医師の診察は毎週月、水、木曜日の午前中。外来は原則予約が必要で、予約センター(086―464―1548)まで。受付時間は平日午前8時半〜午後5時、土曜日午前8時半〜午後0時半。脳神経センターの初診の受け付けは午前8時半〜同11時半。

川崎医大病院

倉敷市松島577

電話086―462―1111

メールアドレス

hsyomu@med.kawasaki−m.ac.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年09月20日 更新)

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