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最善医療へ最新設備 倉敷中央病院の新館完成 機能や将来像、小笠原敬三院長に聞く

地上14階地下1階の建物に最新設備を備えた新館

天井懸垂装置を設置し、壁面からの配線・配管を少なくするよう配慮した手術室

 倉敷紡績社長で、大原美術館(倉敷市中央)を開設したことでも知られる大原孫三郎(1880〜1943年)は今年生誕130年を迎え、記念事業が行われている。その孫三郎が「東洋一の理想的な病院を」と大正12(1923)年に創設したのが倉敷中央病院(同市美和)だ。最新設備の整った新館(新3棟)が完成、1日から本格的に診療が始まる。創立90周年の2013年には施設リニューアルが完了する。倉敷、総社、新見、高梁、笠岡市など高梁川流域を中心に岡山県西部の急性期基幹病院として役割はさらに大きくなっている。新館の機能や病院の将来像などについて、小笠原敬三院長に川端英男山陽新聞社専務取締役が聞いた。(本文敬称略)


アメニティーに配慮


 川端 記念すべき年に新館が完成しました。

 小笠原 新館は外来玄関から右手奥、敷地の南東部に位置します。地上14階地下1階で、1階と地階に放射線センター、2階に手術センター、3階に病院スタッフの会議室や医局、4階にICU(集中治療室)、NCU(脳神経集中治療室)の集中医療センターがあり、5〜13階が病棟(全404床)です。最上階には屋上庭園があります。

 川端 孫三郎は「完全なる診療と懇切なる看護とにより進歩せる医術に浴せしむる」という院是を作り、「平等主義で治療本位」、つまり「患者本位の治療」という理念を掲げました。

 小笠原 その精神を受け継ぎ、最善の医療を提供するには、優秀なスタッフと最新の設備が欠かせません。そこで新館にはMRI(磁気共鳴画像装置)、CT(コンピューター断層撮影)検査用の部屋を多数整え、今後、最新の画像検査機器も導入します。合わせて、がん診断に実力を発揮するPET―CT、脳血管障害や心血流の診断に有用なSPECT―CT検査室も整備します。手術室は10室が完成し、病院全体で23室になりました。今後、手術中に撮影した三次元(3D)画像を見ながら内科的治療や外科手術を行うことができる「ハイブリッド手術室」や感染症対応手術室を増やし、全32室にします。

 川端 孫三郎は「病院らしくない病院」を目指し、「患者が心地よく療養できる」、今の言葉で言えばアメニティーにも心を配りました。新館を拝見しましたが、病室の窓を多く取る工夫がなされ、絵画やステンドグラス、陶板などもあしらわれています。患者は病気の不安を抱え、わが家とは違う環境に置かれるわけですから、孫三郎の配慮は大切でしょう。

 小笠原 完成した新館は患者さんの「安全とプライバシー」に配慮しながら、4人部屋であっても各ベッドに自然光が注ぐように設計するなど、療養に適した病室に工夫しています。屋上庭園は見晴らしが良く、雨天でも散歩ができるよう回廊を設けました。このほか、1階には「フラワーガーデン」と名付けたアトリウムがあり、噴水のある睡蓮(すいれん)の池も作りました。この睡蓮は、大原美術館の代表的な名画「睡蓮」で知られる画家モネの庭(フランス)のものです。当院は急性期病院ですので、平均入院期間は約12日と短期間ですが、できるだけ心地よい入院生活を過ごしてもらいたいと願っています。

 川端 新館の完成で、「完全なる診療」へ患者にはどんなメリットがありますか。

 小笠原 最新設備を持った手術センターや集中医療センターなどができたことで、急性期疾患に対応できる体制が強化されたと考えています。これを機に、内科と外科が一体化してより総合的な診療を推進する“臓器別センター”を充実しようと、すでにある心臓病センターに加えて脳神経センター、呼吸器センター、消化器センターを立ち上げました。総合力を挙げて最新医療を提供し、これまで以上に地域に貢献したいと思います。


シームレスサービス


 川端 国の医療制度改革によって、地域における病院のあり方自体も大きく変化しています。がん、心臓病、脳卒中などの手術をする急性期の病院、回復期リハビリを行う病院、病状が安定した維持期の治療をする病院―と病期による役割分担が重要になりました。

 小笠原 病気の治療には診断・治療から回復期療養、通院治療など種々の病期があり、地域全体で患者さんの闘病を支援する新しい医療体制、つまり「地域包括ケアシステム」を確立する必要が迫られています。当院の患者さんの中にも、回復期病院や療養型病院、介護施設へ転院される方が多くいらっしゃいます。この役割分担がうまくいっていますから、現在のように年間3万人を超える入院患者さんを治療し、年間1万2000件の手術をすることが可能になっているのです。

 川端 患者の立場から言えば病期ごとに病院が変わるわけですから、お医者さんの連携をしっかりしてほしい。

 小笠原 多数の医療機関同士が緊密に連携し、役割分担しながらシームレス(切れ目なく)に医療サービスを提供していかなければなりません。当院ではすでに1989年に「地域医療サービス室」を開設し、地域の医療機関からの円滑な紹介受付に取り組み始めました。最近では「地域連携クリティカルパス」を作成する場合もあります。これは患者さんの同意を得た上で、病気の診断から治療、リハビリ、在宅医療までを複数の医療機関・施設にまたがって行うための診療計画です。大腿(だいたい)骨骨折や脳卒中、がん、糖尿病の一部で行っています。

 川端 病院と診療所、病院と病院の連携は、患者へのきめ細かい取り組みを期待します。

 小笠原 現在は医師、看護師、医療ソーシャルワーカーなどが一丸となった「総合相談・地域医療センター」に体制を強化し、地域の医療機関と顔の見える連携をすること、その連携によって患者さんの満足度を向上させることに努めています。新館に隣接して着工予定の増築棟に、入院の準備から退院後の療養をお世話する入退院支援センターの設置を予定しており、“地域完結型医療”の要にしたいと考えています。

 川端 専門高度な医療を展開すると同時に、災害などの拠点病院でもある。基幹病院というのは、まさにこのような幅広い守備範囲ですね。

 小笠原 全国のDPC(診断群分類包括評価)病院における機能評価をみると、どのような病気を治療しているのかを示す「疾患カバー率」は全国第1位。「救急医療」では緊急入院患者数は1位で、救急車による搬送数は14位です。地域医療への貢献度を示す「地域医療係数」では、7項目のうち、脳卒中、がん、災害時医療、周産期医療など6項目を獲得しています。

 川端 今後の方針と病院の将来像を聞かせてください。

 小笠原 今後、新館に隣接して救急医療センターや救急患者さんのための集中治療室などを建設し、救急車の搬送患者に対してよりスムーズな対応・診療ができるよう考えています。これまでの病棟は耐震構造への強化工事など全面的にリニューアルし、病室を広げるとともに、より療養に適した環境を整えたい。そうする中で、民間急性期基幹病院はどうあるべきか、そのロールモデルを目指すつもりです。

 川端 将来へ人材の確保や育成も大事です。

 小笠原 人材が集まる“マグネットホスピタル”であるために、今後も魅力ある働きやすい職場づくりに取り組んでいかなければなりません。医療スタッフは急性期医療だけでなく、慢性期医療や在宅医療を理解でき、地域医療に広く貢献できるような人材を育成していきます。より効果のある治療方法の開拓に向けて、患者さんの十分な同意と納得を得て臨床研究を行い、医療イノベーションへ参画することも必要だと思います。時代の要請に応えながら、地域に信頼される病院づくりを進めていきます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年10月01日 更新)

タグ: 倉敷中央病院

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