文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 岡山大病院 法改正で脳死移植急増 年間最多5例 難しい手術室運用 スタッフ充実も不可欠

岡山大病院 法改正で脳死移植急増 年間最多5例 難しい手術室運用 スタッフ充実も不可欠

過去にないペースで脳死移植が実施される岡山大病院。年間最多となる5例目は肝移植だった(同病院提供)

 脳死での臓器提供が家族承諾で可能となった改正臓器移植法の全面施行(7月17日)により、岡山大病院(岡山市北区鹿田町)での脳死移植が急増している。改正前にはゼロだった今年の実績は、3日から4日にかけての手術で肺、肝臓合わせ5例に。年間最多だった2006年(4例)を2カ月半で超えた。

 手術室など空きの少ない設備の運用調整、担当医師やスタッフの充実…。過去にないペースで脳死による臓器提供が進む中、受け入れ面の課題ものぞく。

■   □

 心臓など5臓器の脳死移植が可能な同病院。「肝臓や肺、心臓などが同時に行われる可能性もある。しかるべき備えが必要だ」。肝移植を担当する八木孝仁肝胆膵(かんたんすい)外科長は、体制の強化を訴える。

 改正臓器移植法全面施行までは3例だった今年の脳死移植は、その後一気に18例まで増え、年間最多を更新。岡山大病院では肺3例、肝臓2例を実施した。

 「手術だけなら週に2、3例は可能」。同病院で肺を担当する大藤剛宏呼吸器外科講師はこう話しつつ、「脳死ドナー(提供者)が増え続ければ、病院の設備とスタッフの充実が欠かせない」とも言う。

■   □

 同病院の手術室(13室)は、平日は外科手術などがびっしり。摘出から長くても十数時間しか猶予がない脳死移植が飛び込めば、予定していた手術を延期せざるを得ない。

 9月18、19日の脳死移植の際には、肝臓に加え一時肺も同病院の患者に提供される状況が生じた。5臓器の脳死移植が可能な施設だけに、困難な手術室の調整を迫られるケースが想定される。

 感染症を防ぐために移植患者が術後2週間程度入る集中治療室(ICU)も同様。52床使えるが、生体移植や他の高度医療を手掛けており、脳死移植が連続すると余力がなくなる恐れもある。

 森田潔病院長は「12年に新中央診療棟が完成すれば手術室が数室増えて状況は好転するが、多臓器が移植できる数少ない病院だけに、早急に必要な体制を整えたい」とする。

■   □

 スタッフの充実も喫緊の課題だ。移植医が「一人前」になるには最低でも5年が必要。長期的な視野に立った育成が欠かせない。

 特に、脳死移植が進まず、国内での育成が不可能だった肺の移植医の少なさは深刻。全国でも数人しかおらず、同病院にも三好新一郎教授と大藤講師の2人だけ。「安泰」とされる5人体制に向け、本年度中に2人を豪州へ送り出し、1人は同病院で腕を磨かせる方針を打ち出している。心臓移植を担当する心臓血管外科でも海外で育成を進める。

 移植を支えるチームメンバーの拡充も不可欠。肺は呼吸器、循環器内科など複数の診療科をまたいだ30人体制。当然、専従ではなく各診療科で通常勤務をした上での協力で、負担は大きい。「複数のチームが交代で対応する体制になれば」と大藤講師は願う。

 肺70例、肝臓250例超の移植を手掛けるなど、国内の移植医療をリードしてきた同病院。今後背負う使命と責任は増すばかりだ。

 大藤講師は言う。

 「移植を実施する病院から、移植センターを構えた欧米型の病院に“脱皮”する日はいずれやってくるだろう」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年10月06日 更新)

タグ: 岡山大学病院

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ