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(6)女性外来 岡山労災病院 田端 りか医師(45)

女性外来では「患者さんがくつろげ、話しやすい雰囲気づくりを心掛けています」と語る田端医師

初診患者にじっくり30分
同性の目線で総合診療


 50代の女性患者が晴れ晴れとした表情を浮かべた。

 「このところ、調子がいいです。楽になりました」

 岡山労災病院の「女性のための総合外来」。診察室で向かい合う田端も自然と笑顔になる。

 手足が腫れる、痛む、体がだるい。女性は2年前から、そんな症状に悩んできた。

 別の総合病院で「膠原(こうげん)病でしょう」と告げられた。だが、血液検査で異常がなく、診断が確定しなかった。結局、治療法は示されず、症状に苦しみ続けた。仕事もやめた。

 この外来をインターネットで見つけ受診したのは昨年8月。「物が持ちにくい。手が水で冷えると特にひどく、料理ができない」。同じ主婦として田端は、そのつらさが理解できた。

 膠原病は免疫の異常で全身の関節や血管などに炎症が起きる病気の総称。ステロイドの投薬が代表的な治療だが、骨粗しょう症など副作用の恐れがある。検査数値だけ見れば、医師が投薬をためらうのも分かった。

 「でも、患者さんの話を聞いて、やっぱり膠原病の可能性が高い、何とかできないかって思ったんです」

 田端は副作用についてよく説明した上、飲み薬の服用を勧めた。薬は劇的に効いた。女性は家事を思い通りこなせ、再就職を考えるまでに回復した。

 男性と女性では患いやすい病気に違いがある。男女固有の生殖器や乳房などの病気に限らない。膠原病は女性に多い。アルツハイマー病や甲状腺の病気のバセドー病、橋本病もそうだ。心筋梗塞(こうそく)は男性に多いが、発症後の死亡率は女性の方が高いという報告もある。

 こうした違いに基づく性差医療が注目されている。特に、女性患者に特化し主に女性医師が診る女性外来は、ここ10年で東京や大阪を中心に増えている。

 10年余り前、田端は医師の夫の留学に同行した米国で、肺がんの新薬が男性より女性に効くという学会発表を聞いた。性差医療に関心を持ったのは、それからだ。

 帰国後、出産、パート勤務を経て臨床現場に本格復帰すると女性外来の開設を病院に提案。2008年9月、実現にこぎつけた。

 反応は予想以上だった。診療は週1回、2時間だが、これまで2年間で診察したのは、再診を含め約360人に上る。40〜60代が中心で、岡山県北や広島、香川など県外からわざわざ来る人もいる。

 高いニーズの背景には、医療に対する不満があるという。「のぼせなど更年期障害のつらさを男性医師に訴えたら、『時間がたてば治る』と片付けられた」「医師が話をよく聞いてくれない」。そんな声も耳にする。

 だから、診察ではじっくり話を聞くことを心掛ける。そのために初診の患者は30分、診察時間を確保。病気だけでなく、仕事や家族関係の悩みまで話は及ぶ。その上で、何が患者のためになるか、同性の目線で、治療法をともに考える。

 気配りも細かい。「男性に見られるのが恥ずかしい」という女性のため、田端や看護師はもちろん、心電図などの検査をする技師も女性を充てている。

 草創期の女性外来は病院により診療体制がさまざま。岡山労災病院は内科医の田端がまず診察し、必要があれば各診療科の専門医につなぐ「総合診療」が特徴。更年期障害や尿漏れ、高コレステロール、うつ、適応障害、片頭痛、肩こりなど幅広い症状に対応できる。

 その実績を踏まえ同病院は来月13日、女性医療フォーラムを岡山市で開く。準備に当たる田端は、働く人の医療を担う病院、そして自身も2児を育てながら働く医師として、テーマに「ワークライフバランス」を選んだ。

 「女性外来の患者さんを診ていると皆、ストレスがたまっているなあと思うんです。その原因の一つが、仕事と家庭のバランスをどう保つかですね」

 女性たちの体と心を総合的に診る。その中で抱いた実感だ。

 (敬称略)


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 たばた・りか 朝日高、香川医大(現香川大)卒。岡山大第2内科(現血液・腫瘍(しゅよう)・呼吸器・アレルギー内科)入局。国立岡山病院(現国立病院機構岡山医療センター)、三菱水島病院など経て2005年から岡山労災病院勤務。予防医療部・健康診断部副部長。趣味は音楽鑑賞とフルート、ピアノ演奏。中学、高校は吹奏楽部、大学はオーケストラで演奏した。


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 第8回女性医療フォーラム 11月13日午後1時〜5時35分、岡山市北区駅元町、岡山コンベンションセンター。肥塚見春・岡山高島屋社長、伊東香織・倉敷市長らのシンポジウム「女性のワークライフバランスを考える」と、作家あさのあつこさんのトーク、女性泌尿器分野の研究報告。参加自由、無料。問い合わせは岡山労災病院総務課。

 フォーラムは全国の労災病院を運営する労働者健康福祉機構と、女性外来のある6労災病院が毎年開催。岡山での開催は初めて。



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 女性のための総合外来 毎週金曜日午後2時〜4時。予約制の保険診療。予約は女性外来担当保健師へ。

岡山労災病院

岡山市南区築港緑町1の10の25

電話086―262―0131

メールアドレス

shomu2@okayamah.rofuku.go.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年10月18日 更新)

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