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(2)更年期障害 川崎医大産婦人科教授 下屋 浩一郎

グラフ

表1

表2

 今回は更年期障害についてのお話です。

 閉経を境とした前後約10年間を更年期と言います。卵巣では月経が始まって以降、排卵によって少しずつ卵母細胞が減少していきます。40歳を過ぎると急速に卵母細胞の減少が加速して、50歳前には卵母細胞は極めて少なくなり、この変化に同調して卵巣の働きも低下するため女性ホルモンの分泌が低下します。この卵巣での変化に呼応して月経周期の変調、無排卵、そして閉経が起こります。

 閉経の年齢は約50歳とされ、昔に比べて変化はありません。グラフに日本の女性の平均寿命を示しますが、女性の平均寿命が50歳を超えたのは昭和20年ごろからです。戦後急速に平均寿命は延び、現在では女性は30年以上、閉経後の女性ホルモンが減少した中で過ごします。

 この女性ホルモンの不足に加えて閉経前後の時期には、子育て、親の介護など家庭でのストレス、あるいは職場などでの社会的ストレスも加わって更年期障害の症状が重症化します。更年期障害の症状は大きく二つに分けられます。一つは“顔面紅潮(ほてり)・発汗・動悸(どうき)・冷え”などの自律神経失調症状で、もう一つは“不眠・いらいら”などの精神神経症状です。更年期障害の診断には問診が重要ですが、症状には表1に示すようなものがあります。更年期症状が女性の生活の質を妨げるようであれば治療の必要があります。更年期障害の治療としてはストレスを軽減させることも重要で、運動やサークル活動など生活を変えることやカウンセリングあるいは夫や友人などのサポートにも更年期症状緩和の効果があります。

 薬物療法として女性ホルモン補充療法、漢方治療、抗不安薬などが用いられます。特に、不足している女性ホルモンを直接補うホルモン補充療法は治療効果も高く、有用な治療法です。ホルモン補充療法というと、どうしても副作用ばかりがクローズアップされがちですが、産婦人科医師と相談して子宮癌(がん)・乳癌検診や血液検査を定期的に受けることで副作用も予防して更年期障害の症状を軽減してゆとりある生活を送ることができます。私としては更年期障害の症状に悩まされている方は、ホルモン補充療法を用いてはいけない合併症がない限り、一度ホルモン補充療法を試してみて続けて用いてみるかどうか判断されたら良いと思います。

 ホルモン補充療法の効果をまとめると表2のようになります。ホルモン補充療法は更年期におけるさまざまな不快な症状やホルモン不足から生じる体の変調に対して効果を持っています。ホルモン補充療法に用いる薬剤として最近では副作用軽減の目的で経口薬ではなく皮膚から吸収される薬剤が積極的に用いられています。乳癌や子宮体癌などの悪性腫瘍や血管の中で血液が固まる血栓症を患ったことがありホルモン補充療法を用いることができない方や、ホルモン補充に抵抗感のある方には、漢方薬や抗不安薬などを組み合わせて治療を行います。

 更年期障害に対して心理的サポートに加えて薬物療法を上手に組み合わせることによって運動や趣味、旅行などをエンジョイして活力ある生活を過ごすことができます。何よりも更年期の不快な症状を「年だから」と言って諦めてしまわずに産婦人科医師に相談してみることから始めたら良いと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年12月06日 更新)

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