(9)不整脈治療 心臓病センター榊原病院 伴場 主一内科部長(39)
「心臓を焼きます」
目の前の医師から真顔でこう言われたら、不整脈に苦しむ患者の心臓が縮み上がってしまうかもしれない。が、この治療こそが根治の道を開いたのだから恐るるに足らず、だ。
カテーテルアブレーション、心筋焼灼(しょうしゃく)術という。先端に金属チップの電極が付いた細い管を太ももの付け根などから心臓まで送り込み、不整脈の原因となる心筋の一部を焼いてしまう。
これまでは薬を飲み続けて発作を抑制していくのが主流だっただけに、患者にとってはまさに福音。対症療法から根治への方向性が強まるのは、騎虎の勢いだろう。
カテーテルアブレーションは心臓病の専門医をそろえた榊原病院の“お家芸”の一つ。中・四国でトップクラスの実績を誇り、1992年からこれまでの症例は累計で軽く2千を突破している。
現在、この手技の中心になっているのが、若きエースの伴場だ。
「とにかく一例一例、一人一人の『病客』(患者さん)に向き合って無我夢中でやってきただけ。最初は気負いもありましたが、今はこのブランドをより高めていきたいと必死です」
その言葉から、熱い思いが伝わってくる。
不整脈の診療、治療で国内のトップレベルにある大江透研究部長=岡山大名誉教授=の存在もあって、昨年10月に内科部長としてやって来た。
「先生とまた一緒に働くことができるのは、大変幸せなこと。診療の質をさらに洗練させていきたいと思っています」
岡山大学病院時代の5年間、不整脈の臨床、研究をみっちり教わった恩師との再会が、大きな発奮材料になっているようだ。
心筋焼灼術はまだ20年ほどの歴史にすぎないが、高度な医療機器の開発にも後押しされてここ数年で目覚ましい進歩を遂げている。
医療の専門化、細分化に拍車がかかる中での診察、治療には豊富な専門知識に高度な技術、それに心電図に目を凝らしながら異常を探索していく、鋭い解析力が求められる。
「コンピューターが見落としてしまうような所見も読み取っていくのが本当のプロ。もちろん最新鋭の医療機器も欠かせませんが…」と少し間を置いて伴場は言葉を継いだ。
「例えて言えば、F1レースのようなものでしょうか」
なるほど、最新鋭のマシンに優れたドライバー、それに信頼できるピットが一体となって争うレースに似ていなくもない。
心筋焼灼術の主な対象は脈が速くなる不整脈。手持ちの用紙にラグビーボールのような楕円(だえん)を描いて、伴場は“焼き方”を説明してくれた。
まず、心臓の中をぐるぐると規則正しく回る不整脈の場合は―心臓を模した楕円の中に円形の電気信号を書き加えながら「このタイプは回路の途中を寸断するだけで、ほぼ百パーセント根治できます」
が、心房細動という不整脈は、少々手ごわいらしい。
こちらは、電気信号が不規則なため、「肺静脈電気隔離」という方法で、震源地の肺静脈を攻めていくことになる。
1回のトライによる治療効果は今のところ80%前後だが、伴場はこの程度ではとても満足できないらしい。
「まだまだ発展の余地はある」と意欲的で、その積極的な姿勢そのままに、今ではこの複雑な不整脈に対するカテーテルアブレーションが全体の約3分の1までを占めている。
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ばんば・きみかず 岡山大医学部卒。岡山大学病院、倉敷中央病院、高知医療センターなどの循環器内科を経て昨年10月から榊原病院に。尾道市生まれ、名古屋市育ち。
大学時代は野球部で内野手。ひいき球団はもちろん、中日ドラゴンズ。
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不整脈 心臓は1分間に60~80回収縮を繰り返し、肺や全身に血液を送り出す。しかし、収縮のリズムをつくり出す刺激伝導系に異常が起きると、脈が遅くなる徐脈や、逆に脈が急激に速まる頻脈などを引き起こす。放置しておいても平気なものから、直ちに治療しなければ命にかかわるケースまでタイプはさまざま。
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カテーテルアブレーション 不整脈を治療するため、血管に挿入した細い管(カテーテル)の先端から高周波を流し、その熱(通常50~55度)で異常の原因となっている心筋の一部を焼灼して壊死(えし)させる。開胸手術に比べて体への負担が大幅に軽減された。入室から焼灼終了まで1~4時間。1泊2日の短期コースもある。
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合併症 カテーテルアブレーションの場合は、カテーテルを心筋に密着させ、焼灼する際に起こる可能性がある。ごくまれではあるが、重篤なケースでは心臓に穴が開いたり、血栓の発生により脳塞栓(そくせん)症を引き起こしたりする。
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外 来
伴場医師の新患外来は月曜日の午前中。原則予約。診察は水曜日の午前と午後。
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心臓病センター榊原病院
岡山市北区丸の内2の1の10
電話086―225―7111
メールアドレス
sakakibara-hp@sakakibara-hp.com
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。
目の前の医師から真顔でこう言われたら、不整脈に苦しむ患者の心臓が縮み上がってしまうかもしれない。が、この治療こそが根治の道を開いたのだから恐るるに足らず、だ。
カテーテルアブレーション、心筋焼灼(しょうしゃく)術という。先端に金属チップの電極が付いた細い管を太ももの付け根などから心臓まで送り込み、不整脈の原因となる心筋の一部を焼いてしまう。
これまでは薬を飲み続けて発作を抑制していくのが主流だっただけに、患者にとってはまさに福音。対症療法から根治への方向性が強まるのは、騎虎の勢いだろう。
カテーテルアブレーションは心臓病の専門医をそろえた榊原病院の“お家芸”の一つ。中・四国でトップクラスの実績を誇り、1992年からこれまでの症例は累計で軽く2千を突破している。
現在、この手技の中心になっているのが、若きエースの伴場だ。
「とにかく一例一例、一人一人の『病客』(患者さん)に向き合って無我夢中でやってきただけ。最初は気負いもありましたが、今はこのブランドをより高めていきたいと必死です」
その言葉から、熱い思いが伝わってくる。
不整脈の診療、治療で国内のトップレベルにある大江透研究部長=岡山大名誉教授=の存在もあって、昨年10月に内科部長としてやって来た。
「先生とまた一緒に働くことができるのは、大変幸せなこと。診療の質をさらに洗練させていきたいと思っています」
岡山大学病院時代の5年間、不整脈の臨床、研究をみっちり教わった恩師との再会が、大きな発奮材料になっているようだ。
心筋焼灼術はまだ20年ほどの歴史にすぎないが、高度な医療機器の開発にも後押しされてここ数年で目覚ましい進歩を遂げている。
医療の専門化、細分化に拍車がかかる中での診察、治療には豊富な専門知識に高度な技術、それに心電図に目を凝らしながら異常を探索していく、鋭い解析力が求められる。
「コンピューターが見落としてしまうような所見も読み取っていくのが本当のプロ。もちろん最新鋭の医療機器も欠かせませんが…」と少し間を置いて伴場は言葉を継いだ。
「例えて言えば、F1レースのようなものでしょうか」
なるほど、最新鋭のマシンに優れたドライバー、それに信頼できるピットが一体となって争うレースに似ていなくもない。
心筋焼灼術の主な対象は脈が速くなる不整脈。手持ちの用紙にラグビーボールのような楕円(だえん)を描いて、伴場は“焼き方”を説明してくれた。
まず、心臓の中をぐるぐると規則正しく回る不整脈の場合は―心臓を模した楕円の中に円形の電気信号を書き加えながら「このタイプは回路の途中を寸断するだけで、ほぼ百パーセント根治できます」
が、心房細動という不整脈は、少々手ごわいらしい。
こちらは、電気信号が不規則なため、「肺静脈電気隔離」という方法で、震源地の肺静脈を攻めていくことになる。
1回のトライによる治療効果は今のところ80%前後だが、伴場はこの程度ではとても満足できないらしい。
「まだまだ発展の余地はある」と意欲的で、その積極的な姿勢そのままに、今ではこの複雑な不整脈に対するカテーテルアブレーションが全体の約3分の1までを占めている。
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ばんば・きみかず 岡山大医学部卒。岡山大学病院、倉敷中央病院、高知医療センターなどの循環器内科を経て昨年10月から榊原病院に。尾道市生まれ、名古屋市育ち。
大学時代は野球部で内野手。ひいき球団はもちろん、中日ドラゴンズ。
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不整脈 心臓は1分間に60~80回収縮を繰り返し、肺や全身に血液を送り出す。しかし、収縮のリズムをつくり出す刺激伝導系に異常が起きると、脈が遅くなる徐脈や、逆に脈が急激に速まる頻脈などを引き起こす。放置しておいても平気なものから、直ちに治療しなければ命にかかわるケースまでタイプはさまざま。
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カテーテルアブレーション 不整脈を治療するため、血管に挿入した細い管(カテーテル)の先端から高周波を流し、その熱(通常50~55度)で異常の原因となっている心筋の一部を焼灼して壊死(えし)させる。開胸手術に比べて体への負担が大幅に軽減された。入室から焼灼終了まで1~4時間。1泊2日の短期コースもある。
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合併症 カテーテルアブレーションの場合は、カテーテルを心筋に密着させ、焼灼する際に起こる可能性がある。ごくまれではあるが、重篤なケースでは心臓に穴が開いたり、血栓の発生により脳塞栓(そくせん)症を引き起こしたりする。
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外 来
伴場医師の新患外来は月曜日の午前中。原則予約。診察は水曜日の午前と午後。
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心臓病センター榊原病院
岡山市北区丸の内2の1の10
電話086―225―7111
メールアドレス
sakakibara-hp@sakakibara-hp.com
(2010年12月21日 更新)
タグ:
急性心筋梗塞、 心臓病センター榊原病院