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(3)骨盤臓器脱・尿失禁 川崎医大病院産婦人科医師 木村 俊夫・川崎医大産婦人科教授 下屋 浩一郎

川崎医大病院産婦人科医師 木村 俊夫

図ー1

図ー2

 女性の骨盤の中には、膀胱(ぼうこう)、尿道、腟(ちつ)、子宮、直腸などがあり、これらをまとめて骨盤内臓器と呼びます。これら骨盤内臓器が下がってきて、腟を通って外に出てくることがあり、骨盤臓器脱と呼びます=図1参照

 骨盤臓器脱は女性であれば、誰でも起こり得る可能性があり、一般的な病気です。日本での正確な統計はありませんが、欧米では、分娩(ぶんべん)を経験した女性の約半数に骨盤内臓器の下垂が認められ、そのうち約1割が骨盤臓器脱や尿失禁のために治療を受けています。骨盤臓器脱の症状として「腟から何かが出ている」という脱出・下垂による症状と排尿・排便の障害があります。

 骨盤臓器脱の主な原因は、妊娠・分娩によって、子宮や膣壁を支持している組織が傷むことです。それに加え、加齢による支持組織の脆弱(ぜいじゃく)化や骨盤の底を支えている筋肉群の衰えも原因です。骨盤臓器脱は、命にかかわる病気ではないので、症状が軽ければ、経過観察も可能です。自覚症状があり、自分が治したいと思った場合、治療対象となります。

 有効な治療は、ペッサリー療法と手術です。ペッサリー療法は、膣内にリング状のペッサリーを挿入し、脱出部位を出てこないように押さえ込みます=図2参照。骨盤臓器脱に対する根治療法は手術です。しかし、すべてに対し百パーセント完璧な手術法はありません。脱出した部分を摘出して補強したり、脱出部を骨盤内の靭帯(じんたい)に固定したり、おなかの方に吊(つ)り上げる手術などがあります。しかし、これまでの手術は、弱くなった組織を再利用するため、加齢とともに組織が再び弱くなり、また下がってくることがあります。どのような術式でも術後の再下垂、再脱出による再手術の可能性があり、再発率は20~50%と言われています。

 近年、人工素材(メッシュなど)と手術手技の改良により、新たなメッシュ手術が行われるようになりました。現時点では、まだ長期成績は不明ですが、短期的には合併症や再発が少なく、今後、骨盤臓器脱に対する手術の主流になると期待されています。最も一般的なメッシュ手術は、TVM(tension"free vaginal mesh)と呼ばれる術式です。

 “自分の意思とは無関係に尿が漏れる状態”のことを尿失禁と言います。しかし、尿漏れがあったとしても、全例で治療が必要ではありません。社会的、衛生的に問題となる場合に治療を考えます。尿失禁の頻度は、出産経験者の4割といわれ、女性にとっては決してまれな病気ではありません。

 尿失禁は大きく二つのタイプに分かれます。腹圧性尿失禁は、咳(せき)やくしゃみなど、おなかに力がかかった時に尿が漏れるタイプです。このタイプの尿漏れは、尿道に問題がある場合に起こります。腹圧性尿失禁の一番の原因は、分娩(経腟分娩)です。その他に、便秘、肥満、力仕事などがあり、腹圧が上昇することに関係しています。切迫性尿失禁は、尿意を感じて我慢できず尿が漏れてしまうタイプです。これは、自分の意思に反して膀胱が収縮し、尿が保持できないために起こります。

 腹圧性尿失禁の治療は、尿道を安定させることです。具体的には、骨盤底筋運動と手術です。軽症であれば、骨盤底筋運動でかなり改善が期待できます。しかし、効果が自覚できるのは、2~3カ月後です。重症であれば、手術の適応となり、テープを用いて尿道を支える手術を行います。切迫性尿失禁の原因は、神経の調節の問題なので、基本は薬物療法です。行動療法として、膀胱訓練を組み合わせることもあります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年12月21日 更新)

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