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(4)子宮頸がん 川崎医大産婦人科学教授 中村隆文

中村隆文

 子宮頸がんは、子宮の入り口にできる悪性腫瘍です。膣(ちつ)とつながっていて外界の発がん物質、ウイルスの侵入や刺激などの影響を受けやすい部位であり、周期的に女性ホルモンの影響で未分化な細胞が細胞分裂を活発にしているため、がんが発生しやすい部位と考えられます。

 子宮頸がんは世界で年間約50万人が発症、約27万人がこの病気で死亡しています。2分間に1人が子宮頸がんで命を落としていることになります。日本でも毎年約1万5千人が子宮頸がんと診断されて、このうち約3500人の貴い命が失われています。特に20~30歳代での罹患(りかん)率が近年増加しており、この年代の女性では最も罹患率の高いがんといえます=グラフ参照

 子宮は妊娠、出産するために必須の臓器で、受精卵を体外で生活できる胎児まで育てる重要な器官です。子宮頸がんになった女性の子宮をやむ無く摘出すれば、その女性は妊娠、出産ができなくなるのです。

 近年、子宮頸がんは世界的に“予防できるがん”という認識が定着してきています。原因やリスクファクター(危険因子)が分かってきたからです。子宮頸がんの発症には性交渉でヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮の粘膜に感染して起きることが判明してきたのです。男性も子宮頸がんの発生の原因に関わっています。性交渉の経験のある女性の約80%がHPVに感染しているといわれています。

 またHPVが感染して突然発がんするのでなく、前がん病変(異形成~上皮内がん)の状態から十数年かけて浸潤がんになっていくのです=図1参照。つまり子宮頸がん検診によって早期発見できるのです。

 子宮頸がん検診は、子宮頸部を綿棒で擦過して子宮頸部粘膜の細胞を採取し、顕微鏡で観察する簡単な検査で可能です。痛みも無く1~2分で済みます。定期的に子宮頸がん検診を受けていれば、異形成の段階や、がんのごく初期の段階で発見できるのです。早期発見できれば、ほぼ百パーセントの治癒が期待できるほか、子宮の温存も可能となります。子宮頸部のがんの部分のみ切除する手術(円錐(えんすい)切除術)では、術後は一般女性と同じように妊娠、出産が可能です。子宮頸がんになるのが心配で適応のない症例で円錐切除術をすると、流産、早産、月経困難症などの合併症が発生するため、婦人科腫瘍専門医による手術適応の正確な診断が必要となります。

 肉眼的には全く分からない前がん状態から膀胱(ぼうこう)や直腸に広がって手術ができない浸潤がん=図2参照=になると、放射線治療や化学療法で治療しますが、予後(医学的な見通し)が悪く、リンパ節、肺、肝臓などに遠隔転移して命を落とす危険性が増します。子宮頸部に限局する(とどまる)浸潤がんでは広汎子宮全摘出術が適応になります。この手術は婦人科手術の中で最も難しく、婦人科腫瘍専門医ができる繊細な手術です。

 子宮頸がん予防の新たな手段として、その発症原因であるHPVへの感染を防ぐ感染予防ワクチン接種があります。感染する前、つまり性交渉を始める前に接種すれば予防が可能です。ただし、すべての発がん性ウイルスに対するワクチンではなく、約80%の子宮頸がんの予防ができます。既に感染している女性でも再感染の予防になる可能性がありますが、残念ながら持続感染(感染が長期化)している女性はワクチンでは子宮頸がんの予防はできません。

 今後は子宮頸がん検診とワクチンの併用で、子宮頸がんの撲滅という福音を全女性にもたらしてくれる可能性があります。

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 なかむら・たかふみ 1957年生まれ。82年旭川医科大医学部卒。米国国立衛生研究所(NIH)研究員を経て、98年大阪大医学部産婦人科助手、2004年富山大産婦人科准教授、09年11月から川崎医大産婦人科学教授。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年01月17日 更新)

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