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(6)乳がん 川崎医大乳腺甲状腺外科教授 園尾 博司

 近年、日々の診療で乳がんの増加を肌身に感じている。乳がんは女性のがんで一番多く、現在、推定4万5千人の人が乳がんにかかり、生涯では18人に1人が乳がんにかかる。残念ながら乳がん女性の4人に1人が再発で命を落としており、死亡数の増加にも歯止めがかかっていない。乳がんは乳管にできるがんで、乳管の中にとどまる「非浸潤がん」は超早期のがんであり、百パーセント治る。また「しこり」の大きさ2センチ以内を早期乳がんと呼び、この段階では9割治癒する。

乳がん検診

 現状では、乳がんの9割は「しこり」で発見されており、残りの1割は「しこり」を触れない。「しこり」を触れない乳がんは超早期である非浸潤がんが多く、マンモグラフィー検診での発見が多い。通常、1センチより小さい乳がんは「しこり」を手で触れることができず、マンモグラフィー、超音波検査で発見できる。市町村で行われている公的な乳がん検診はマンモグラフィーと視触診で行われている。一方、超音波検査は有用な検査ではあるが、乳がん検診での有用性が証明されていない。従って、公的な検診は世界中すべてマンモグラフィーであり、超音波検査で検診を行っている国は皆無である。また、マンモグラフィーは若い人では乳がんの発見率が不良であるため40歳以上に行われている。従って、39歳以下の女性は、人間ドックや検診センターなどで超音波検査を受けることをお勧めしたい。

 乳がん検診の受診率は全国平均で14・7%、岡山県15・3%と低率で横ばい状態である。昨年度から無料クーポン券による受診率の向上策が採られているが、これを利用する人も25%にとどまっている。岡山県は、国の方式(2年ごとに実施)と異なり、毎年乳がん検診を行っている=表1参照。当然のことながら2年ごとの受診より、毎年受診の早期がんの比率が高く、特に繰り返し受診者に早期がん(0期とI期)の比率が高い=図1参照。手で触れない、より早期の乳がんの発見にはマンモグラフィーが不可欠であり、毎年受診が望ましい。

手術

 乳房温存術は、「しこり」の大きさが3センチ以下の場合に行われ、3センチを超える場合には乳房切除術となる。近年、術前に抗がん薬を使用し、大きさが3センチを超えている乳がんを小さくして乳房温存術を行う治療が増えている。この場合、6〜7割の人に乳房温存術ができるようになり、2割の人はがんが完全に消失する。さらに有効性の高い治療薬が開発されつつあるので期待したい。また、乳房切除術や皮下乳腺全摘術を行うと同時に組織拡張器を挿入し、後にシリコンバックに入れ替えて乳房の形を保つ手術も行われている。しかし、この手術は腋(わき)のリンパ節への転移が明らかな進行したがんにはお勧めできない。一方、色素や放射性物質を乳房皮内などに注射して、がんが最初に入る腋の下のリンパ節(センチネルリンパ節)を見つけ、これに転移がなければそれ以上腋の脂肪やリンパ節を取らない治療が行われている=図2参照。この治療は術後、腕の腫れが起こらない利点がある。この手術も「しこり」が3センチ以下でないとできない。

 以上のまとめとして、命と乳房と術後の快適さを守るためには早期発見が不可欠であり、幸運は毎年のマンモグラフィー検診を受けて初めて訪れることを強調したい。

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 そのお・ひろし 1972年山口大医学部卒。徳島大医学部第二外科講師を経て、84年川崎医大に内分泌外科講師として赴任。96年から乳腺甲状腺外科教授。2007年から同医大病院癌センター長(兼務)。日本乳癌学会前理事長、日本乳癌検診学会理事・2011年度学術総会会長、国際乳癌研究学会(IABCR)理事。

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※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年02月21日 更新)

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