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(7)不妊症 川崎医大産婦人科教授 下屋 浩一郎

妊娠のプロセス

体外受精―胚移植

 本邦では避妊をせずに性交渉をしているにも関わらず2年以上妊娠に至らない場合を不妊症と言います。米国では1年以上妊娠に至らない場合を不妊症としており、女性の年齢にもよりますが、半年から1年で妊娠しなければ治療を考えても良いと思われます。

 結婚年齢の高齢化、若年女性の喫煙、性感染症の広がり、女性のやせ志向などが影響して不妊症は増加していると考えられています。

 妊娠のプロセスは図1に示すように排卵時期に膣(ちつ)内に射精された精子が卵管膨大部まで移動します。一方、排卵された卵子は卵管に拾い上げられて卵管膨大部に移動し、精子と受精が成立します。受精卵は細胞分裂を繰り返し子宮内に移動し、1週間後に子宮内膜に着床して妊娠が成立します。この妊娠のプロセスのどこかに問題があると不妊症となります。

 不妊症の原因は、大きく男性側(精子)と女性側に分けられ、さらに女性側では排卵因子、卵管因子、子宮因子、頸管(けいかん)因子に分けられます。かつては、不妊症の原因の多くが女性側にあると言われていましたが、現在では男女別の原因はほぼ同程度であると考えられています。

 不妊症の治療を行うにあたっては不妊原因を特定することが重要です。男性側の検査として精液検査を行います。女性側の原因が多岐にわたるので産婦人科受診後2〜3カ月かけて原因を検索していきます。

 排卵因子の検査として基礎体温、ホルモン検査、超音波検査による卵胞発育測定などを行います。基礎体温は、起床時に口腔(こうくう)内の体温を測定するもので排卵に伴って基礎体温が上昇することによって排卵の有無さらには妊娠の診断を行うことができ、必須の検査と言えます。

 卵管因子の検査として子宮卵管造影検査、通気検査、クラミジア検査などを行い、必要に応じて腹腔鏡検査を行うこともあります。

 子宮因子の検査として子宮卵管造影検査、子宮鏡検査などを行い、頸管因子の検査として頸管粘液検査やフーナー検査(性交後検査)を行います。フーナー検査は、性交渉後の精子が子宮頸管内で元気に動いていることを確認する検査です。

 不妊原因が見いだされると治療を行います。不妊治療には原因そのものを治療する方法と不妊の原因を飛び越えて治療する方法があります。

 排卵障害の場合、排卵誘発を行います。排卵誘発に際しては、過剰刺激による卵巣腫大や血液濃縮をきたす卵巣過剰刺激症候群の発生や多胎妊娠などの副作用に注意を払う必要があります。

 卵管因子の場合、腹腔鏡手術などで卵管の手術を行うこともありますが、最近では後で述べる体外受精―胚移植などの高度生殖補助医療(ART)を行うことも多いです。

 頸管因子の場合、排卵の時期に精子を子宮内に注入する人工授精を行います。男性因子の場合、泌尿器科での治療を行い、必要に応じて人工授精やARTを行います。

 いずれにしても、治療にとって排卵時期を知ることが重要で、超音波検査で卵胞の大きさや子宮内膜の厚みを測定したり、排卵検査薬を用いたりします。

 体外受精―胚移植(IVF―ET、図2参照)の最初の成功は、ケンブリッジ大学のロバート・エドワーズ教授と婦人科医パトリック・ステップトーが母体から採取した卵子を体外受精させ、2日半後、受精卵を母の子宮へ移し、1978年7月25日に世界初の体外受精児Louise Joy Brownが誕生したことです。

 昨年、エドワーズ博士がノーベル賞を受賞したことでも話題となり、日本でも83年に第1例目の出産が報告され、現在では不妊治療の主要な治療法として確立し、昨年は日本で出生した子どもの50人に1人はこの技術による妊娠となっています。

 IVF―ETの技術は確立されたものとなりましたが、身体的・経済的負担は少なくなく、治療にあたって慎重な判断が必要です。

 経済的負担に対しては特定不妊治療費助成事業として、高額の治療費がかかる特定不妊治療(体外受精・顕微授精)について、所得制限はあるものの医療保険が適用されない治療費の一部を助成しています。

 また、不妊症は、夫婦にとって精神的負担も大きいので心のケアも重要であると考えられています。不妊治療を受けている施設でよく相談することも大切ですが、各県では不妊相談室を設けており、岡山県では「岡山県不妊専門相談センター不妊・不育とこころの相談室」が岡山大学病院内(岡山市北区鹿田町)にあります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年03月07日 更新)

タグ: 女性お産岡山大学病院

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