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(9)不育症 川崎医大産婦人科教授 下屋浩一郎

グラフ1・不育症の原因別頻度

表1・既往流産回数による治療成功率

 不育症とは、妊娠は成立するけれども流産などが起こり、赤ちゃんを連れて帰れない病気です。厚生労働省の研究班では「2回以上の流産、死産、あるいは、早期新生児死亡(生後1週間以内の赤ちゃんの死亡)がある場合」を不育症と定義しています。

 子どもがいる場合でも、流産・死産、早期新生児死亡を繰り返す場合は、不育症に準じて原因精査を行ってもよいとされています。赤ちゃんに染色体異常や形態異常のない妊娠10週以降の流産・死産や重症の妊娠高血圧症候群による胎児発育遅延症例は、1回でもあれば不育症に準じて抗リン脂質抗体や血栓性素因のスクリーニングを行ってもよいとされています。

 流産は約15%の頻度で生じますが、高年齢や流産回数が多くなるにつれ、その頻度は増加します。そのため、2回か3回の流産があった段階で、専門医に調べてもらった方がよいでしょう。2回の連続流産(反復流産)率は4・2%、3回以上の流産(習慣流産)率は0・88%とされ、毎年3・1万人の不育症患者が発生していると考えられ、決してまれなものではありません。

 不育症を治療する上では不育症に関する専門医が少ないことが問題となり、十分な検査・治療が行われていないケースや不必要な治療が行われているケースもあることから、必要な検査を行った上で治療に当たることが大切です。

 治療を行うためには不育症の原因検索が重要で、必須の検査として(1)子宮の形を検査する子宮形態検査(子宮卵管造影検査など)(2)甲状腺ホルモン異常や糖尿病をスクリーニングする内分泌検査(3)夫婦で染色体に構造的な異常がないかどうか血液で調べる夫婦染色体検査(4)血栓や流産のリスクとなる抗リン脂質抗体検査―があります。

 また、選択的検査としてさらに詳細な抗リン脂質抗体検査、凝固因子検査として血栓性素因スクリーニングなどがあります。不育症患者は“妊娠そのものに対する恐怖感を感じたりする”など抑うつ傾向になりやすく心のケアも治療にとって重要です。

 不育症の原因についてまとめるとグラフ1のようになります。ここで最も多くを占めているのは「原因不明」であり、これは妊娠に伴って避けることのできない偶発的な約15%の流産が繰り返されているものが多く含まれています。

 不育症の治療は原因ごとに専門的治療を行います。

 子宮形態異常ではその程度に応じて手術療法を選択する場合やそのまま経過観察をする場合があります。甲状腺異常や糖尿病が見つかった場合は、妊娠前に内科的治療を行う必要があります。

 夫婦のどちらかに均衡型転座などの染色体異常が発見されたら、十分な遺伝カウンセリングを受けることが重要です。

 抗リン脂質抗体が陽性で抗リン脂質抗体症候群と診断された場合、低用量アスピリン内服およびヘパリン注射が基本的な治療法となります。

 原因不明例(偶発的流産例)では次回妊娠には心のケアを行うと無治療でも生児を獲得する可能性が高いので精査を行っても原因不明であった場合、安易にアスピリンやヘパリンを選択する必要はありません。

 流産回数による治療成績は表1のようになりますが、結果としてこうした治療を行うことによって80%以上の方が生児を得ることができます。しかしながら、流産回数が6回以上になると治療成績が不良となるため、専門医とよく相談する必要があります。

 現在の不育症治療の問題点として専門医不足に加え、保険のきかない検査が多いことや欧米では認められているヘパリン治療が保険診療として認められていません。このため多くの不育症患者は自費診療を余儀なくされ、心理的負担に加えて経済的負担も大きく、これらの問題を改善する必要性があります。

 専門医や治療などの情報を得る場として厚生労働省研究班「不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究」のホームページ(http://fuiku.jp/)があります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年04月04日 更新)

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