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(16)頸動脈狭窄症 川崎医大病院脳神経外科 宇野昌明教授(53)・松原俊二講師(47)

チーム医療で脳卒中の予防を目指す宇野教授(左)と松原講師

技術確かな切開、血管内手術
チーム医療で脳梗塞防ぐ


 日本人の死因でがん、心臓病に次いで多く、命を取り留めても手足のまひなどがしばしば残る脳卒中。その7割を占めるといわれる脳梗塞を招く主な要因の一つが、首の血管が動脈硬化を起こして詰まる頸(けい)動脈狭窄(きょうさく)症だ。

 宇野はその手術のエキスパート。頸動脈内膜剥離術と呼ばれる手術が「お家芸」の徳島大病院時代の1995年から関わった治療は約250例を数える。

 血管が60%以上詰まった中重度の患者は、すぐに症状がない無症候性でも、投薬治療だけだと11%が5年以内に脳梗塞を起こす。だが、手術をすれば危険性が5%に下がる。米国などの臨床試験で手術の有効性が報告されている。

 ただ、「脳梗塞を防ぐ予防的な手術だけに、合併症は避けたい。発生率を3〜5%には抑えないと手術をする意味がない」。決然とした表情で宇野は語る。

 手術は直径1センチ足らずの細い血管を顕微鏡で見ながら切り開き、詰まりのもととなっているコレステロールの塊を、血管表面の内膜ごと剥いで取り除く。周囲には多くの神経が走り、もし傷つければ発声や食べ物ののみ込みが難しくなるなどの障害につながる。そこで物を言うのが、経験に裏打ちされた確かな技術だ。

 さらに、「急に血流が回復すると脳出血を招く場合もある。手術前後の全身管理も気を抜けない」。こうした積み重ねで、宇野が手術した患者の合併症発生率は近年、2%の低さに抑えられている。

 頸動脈狭窄症の外科治療にはもう一つ、血管内手術という方法がある。カテーテルを太ももの血管から入れて頸動脈まで進め、先端のバルーン(風船)で血管を広げた後、長さ4センチ程度のステント(金網の筒)を入れ再狭窄を防ぐ。

 こちらの専門家が松原。公的医療保険が適用されたのが2008年と比較的新しい治療だが、その10年前から徳島大病院で臨床研究として始め、約300例の治療実績がある。その技術は医療関係者にも信頼され、年40〜50例の治療のうち、半分は勤務先以外の病院に招かれ行ったものだ。

 血管内手術は太もものつけ根をわずか2ミリ切るだけ。首の横をS字状に8〜10センチ切開する剥離術より、患者の体の負担が軽く、回復も早い。ただ、治療成績の集積が少なく、剥離術に劣らない有効性があるかまだ分からない。「簡便なだけにやりすぎないよう心掛けている」。松原自身も自戒する。

 わが国でのガイドラインは治療の第一選択として剥離術を勧め、血管内手術は80歳以上や心筋梗塞、ぜんそくを患った人など切開手術のリスクが高い患者に限っている。「大切なのは患者の状態をよく見極めること」。松原は言う。

 どちらかの手術に偏る医療機関もあるという中、両方のエキスパートを擁する川崎医大病院は昨年の場合で剥離術、血管内手術とも二十数例ずつと、バランスが良いのが、宇野のひそかな誇りだ。

 ただ、投薬治療で様子を見るか、切開手術、血管内手術に踏み切るか、患者によっては判断に迷うこともある。

 そこで頼りになるのが、全国の大学病院でも数少ない脳卒中科。内科医15人と手厚いスタッフを誇り、患者を診察して手術の適応を判断、手術前後のケアまで一手に引き受ける。おかげで脳神経外科は手術に専念できる。リハビリ科を含め三つの診療科の医師、看護師らは毎朝、症例検討のカンファレンスを重ね、風通しも良好だ。

 「今や良い治療にチーム治療は欠かせない」。宇野が一昨年、徳島大から川崎医大病院へ移ったのも、脳卒中の治療体制が充実していることが理由の一つだった。

 30年ぶりに故郷の岡山へ戻る宇野が、右腕と見込んで「行ってみんか」と誘ったのが松原。1日考え同行を決めたという松原も「リーダーシップ、指導力がある」と同門の先輩に信頼を寄せる。

 絆で結ばれた2人の医師が二人三脚で脳梗塞の予防を目指す。 (敬称略)

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 うの・まさあき 操山高、徳島大医学部卒。2年間のカナダ・トロント大留学などをへて、徳島大医学部脳神経外科助手、講師、准教授を歴任。2009年4月から現職。

 まつばら・しゅんじ 高松高、徳島大医学部卒。トロント大留学、秋田県立脳血管研究センター勤務、徳島大病院講師(脳神経外科)などをへて、2009年4月から現職。日本脳神経血管内治療学会指導医。

 「脳神経外科は体力勝負」と言う宇野教授は学生時代にテニス部、松原講師はバスケットボール部に所属。川崎医大病院脳神経外科と関連病院の医師でつくる草野球チーム「カロチッド(頸動脈)ファイターズ」では、宇野教授が「7番ライト」、松原講師は「8番レフト」が定位置。

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 頸動脈狭窄症 心臓から脳へ血液を送る首の血管内にコレステロールなどがたまって塊を作り、血液の通り道が狭くなる病気。症状が進むと脳へ送られる血液が不足したり、塊が破裂してできた血栓が脳の細い血管に流れて詰まり、脳梗塞を起こす。以前は欧米に多い病気とされたが、日本でも食生活の変化で増加傾向にある。

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 外来 宇野教授の外来は月・木曜日午前、松原講師は水曜日午前。手術後の経過観察や脳腫瘍などの診察が中心で、頸動脈狭窄症や脳卒中の外来診察は主に脳卒中科が行っている。

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川崎医大病院

倉敷市松島577

電話086―462―1111

メールアドレスhsyomu@med.kawasaki―m.ac.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年04月18日 更新)

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