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CKDに挑む(上) 疫学調査 リン多い食生活が影響

米国のCKD疫学調査について説明を受け、議論を交わす岡山の視察団メンバー=米ペンシルベニア大

 「米国では、経済力が低く、リンが多く含まれる(インスタント食品など)安価な食生活を送る人たちに、慢性腎臓病(CKD)の発症リスクが高いことが分かった」

 米建国ゆかりの地、フィラデルフィア市中心部に位置するペンシルベニア大。全米有数の大学でCKDの疫学調査に取り組むハロルド・フェルドマン教授が会議室で、約4千人を対象に10年間以上にわたり実施している大規模研究の成果を紹介した。

 聞き入るのは、日本腎臓学会理事長で腎臓専門医の槇野博史・岡山大病院長、平松信・岡山済生会総合病院副院長ら、岡山からの視察団7人。推計2600万人の患者がいる米国のCKD研究や治療法を学び、日本でも増え続ける患者の診療システムに反映させていくのが狙いだ。

 「患者は心筋梗塞や不整脈、脳卒中を発症するリスクが高く…」。フェルドマン教授の報告は、1時間に及んだ。

新しい国民病

 CKDは米国腎臓財団が2002年に示した概念。日本では糖尿病やメタボリック症候群、高血圧などが悪化し、腎臓の機能が本来の60%未満に低下した状態が3カ月以上続くなどした場合に診断される。

 肉を中心とした欧米型食生活への移行が一因とされ、2年前には日本腎臓学会が診療ガイドラインを示した「21世紀の新しい国民病」(槇野病院長)。国内には1330万人の患者がいると推計されている。

 早期に発見し、治療することで進行を遅らせることが可能だが、初期はほとんど自覚症状がない。健診などでたんぱく尿が検出されるなど異常があり、精密検査を勧められても放置してしまう人は少なくない。

 「病気は静かに進行していく。たんぱく尿が出た場合、必ず医療機関の受診を」と、視察団メンバーで腎臓専門医の前島洋平・岡山大病院講師は訴える。

連携を強化 

 米専門医らの説明が続く中で、診断・治療に精通するペンシルベニア大のレイモンド・タウンゼント教授の報告には、視察団メンバーから驚嘆の声が上がった。

 02年に内科医105人を対象に行った診断に関する調査で、かかりつけ医が必要な知識を持たずにCKD患者を治療し、重症化した状態で専門医に紹介していた問題に言及。「専門医への患者紹介が遅れた理由を尋ねると、65%の医師が『治療に自信があったから』と回答した」

 その後、同大などで治療に関する基本的な教育プログラムを用意し、かかりつけ医に受講してもらったところ、その“自信”は10%まで低下。病院と診療所で働く医師のスムーズな連携が生まれたという。

 片や日本ではCKDに精通する腎臓専門医は約3千人で、医師のわずか1%にすぎない。槇野病院長は「専門医だけで診断し、治療するのはもはや困難。米国でも進められている病院と診療所の連携強化やチーム医療の促進などに取り組みたい」と話した。



 国際ロータリー第2690地区(岡山、鳥取、島根県)は3月26日から7日間、米国のCKD対策を学び、国内の診療システムに反映させる職業研修チームを米フィラデルフィアに派遣した。同行取材から得た最新のCKDの診断、治療法などを報告する。

ズーム

 CKDの診断 尿、血液検査などで行う。性別や年齢、血中の老廃物クレアチニンの値から、腎臓が血中の老廃物をどのくらい尿へ排出できているかを示す糸球体濾過(ろか)量を推算。この推算糸球体濾過量(eGFR)の数値で腎機能の低下の度合いを評価する。重症度から5段階に分けられ、eGFRが90以上でもたんぱく尿があればステージ1で、15未満なら腎不全のステージ5となる。eGFRの計算式は慢性腎臓病が多い欧米人用に開発され、これを基に日本人用の式が2008年に開発された。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年05月22日 更新)

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