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CKDに挑む(下) チーム医療 診断できる看護職活躍

家庭でも使用できる小型の血液透析器を視察、メリットなどについて説明を受ける平松副院長(右)

 「主な仕事は腎移植の待機患者さんのケア。移植前の検査から薬の処方も行います」

 米フィラデルフィア市のペンシルベニア大病院で働くキャロリン・ミローさんが、岡山からの慢性腎臓病(CKD)視察団を前に切り出した。

 彼女の職種は「ナース・プラクティショナー(NP)」。医師と看護師の中間に位置し、一定の診断や治療ができる上級看護職だ。

 米国では40年以上も前からNP制度を導入。看護師になった後、専門的な教育を大学院で最低2年受けて資格を取得するという。

 「米国でもCKD患者は増えている。医師だけではカバーできない。それを補うのが役目」とミローさん。

 日本は医師法で医師以外による診断などの医療行為を禁止しており、NPは存在しない。だが、高齢社会の到来による医療ニーズの増大などを解決する方策として、一部の関係者が制度導入の動きを活発化。大分県立看護科学大は2008年、大学院に高度な知識を持った看護師を育てる「NPコース」を設けた。

 視察団メンバーで、岡山済生会総合病院腎臓病・糖尿病総合医療センター長の平松信副院長は「医師、患者ともに恩恵を受けられる。日本の医療制度に合った形に変えれば、導入を検討してもいいのでは」とする。

家庭で血液透析 

 CKDの症状が悪化し、末期腎不全になれば透析治療が始まる。

 国内の透析患者は30万人に迫り、90%以上が週2、3回通院し、専用機器で血液を浄化する「血液透析」を受ける。1回の治療時間は4、5時間。必然的に生活上の制約は多くなってしまう。

 米国の透析事情はどうか―。視察団はペンシルベニア大病院近くのダビタ透析センターを訪問した。

 「家庭で血液透析が可能な小型の透析器が近年登場し、普及している」とアラン・ワッサースタイン医師。

 日本も家庭での血液透析は可能だが、機器が大きく、導入はわずかに0・1%。一方、ペンシルベニア大では6%が家庭血液透析を選んでいるという。

 患者はセンターで数回訓練を受けた後、機器を導入。就寝中などに透析するため、患者のQOL(生活の質)向上に役立つという。

日本は上意下達 

 今回の米国視察には腎臓専門医だけでなく、看護師や保健師、食事療法の指導を行う管理栄養士も参加した。

 さまざまな医療従事者が連携する「チーム医療」を学び、日本の診療システムに生かすのが目的だ。

 ペンシルベニア大病院では治療方針などを決めるカンファレンスに医師や看護師、管理栄養士らが出席。公的保険と民間保険が混在する米国らしく、各種保険に通じるソーシャルワーカーも加わり、患者ごとに最適な医療環境を整えていく。

 日本でも一部の病院が実施しているが「医師から指示があり、それに従う上意下達方式が主流」(ある医療関係者)なのが現状だ。

 平松副院長は「家庭血液透析の普及やチーム医療など、米国の進んだ面は多い。日本の医療環境になじむものから、生かしていきたい」としている。
  
ズーム

 透析治療 日本透析医学会によると、国内の慢性透析患者数(2009年末現在)は29万675人で、近年は毎年6700人〜1万人のペースで増加している。透析には「血液透析」と、腎臓と同じく血中の老廃物などを取り除く機能がある腹膜を活用し、家庭などで1日4回ほど自分で透析液を交換する「腹膜透析」がある。施設は全国に約4200カ所あり、血液透析を受けている患者は96・6%。家庭での血液透析は0・1%。腹膜透析は3・4%。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年05月23日 更新)

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