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小児の心筋再生成功 岡山大病院臨床研究 世界初 自身の幹細胞培養、移植

単心室症患者の再生治療のイメージ

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)は24日、生まれつき心室に異常がある1歳女児=中国地方在住=の心臓組織から採取した幹細胞を培養し、心筋に戻して心機能強化を図る再生医療の臨床研究治療を行い、成功したと発表した。心臓ポンプ機能が約10%向上するなど経過は良好という。同病院によると、心臓幹細胞を使った小児への治療は世界で初めて。

 同病院は安全性や効果を確認し、「早く臨床現場で治療ができるよう、治療費の一部が保険適用となる先進医療に年内にも申請したい」としている。

 病院によると、女児は単心室症の一種で左心室が非常に小さい左室低形成症候群。肺への血流を増やす外科手術を3月30日に行った際、心臓組織約100ミリグラムを採取した。自己複製能力を持つ幹細胞を取り出して10日間培養。4月26日の心臓カテーテル検査時に、冠動脈中へ培養した幹細胞180万個(2CC)を注入する「自家移植」を行った。

 女児は1週間後に退院。24日の検査で、移植前に比べ心筋重量は約22グラムから18%増え、ポンプ機能は約10%アップしていた。7月下旬の再検査で、治療効果などを再確認する。

 佐野俊二・心臓血管外科教授が採取を、王英正・新医療研究開発センター教授が培養、大月審一・小児循環器科教授が注入を担当。会見で佐野教授らは「感染症などもなく、心機能も想定以上に向上した。今後の研究の弾みになる」と述べた。

 臨床研究は国の承認を得て実施。1歳男児への自家移植も17日に実施しており、年末までに計7人を治療する。高い安全性や効果が確認できれば、治療の有無で患者を比較する第2期の臨床研究を申請する。


移植につながる治療 患者や家族へ朗報


 先天性の重い心疾患、左室低形成症候群を患う1歳女児に自らの心臓幹細胞を培養して自家移植する再生医療に、岡山大病院が24日までに世界で初めて成功した。成人に対する治療は京都府立医科大が既に行っているが、小児の心機能の向上を目指す岡山大の研究治療が成果を挙げれば、心臓移植という次の治療にもつなげられ、患者や家族にとって朗報となる。

 生まれつき心臓に大きな変形がある場合、数度の外科手術や再生医療でも完治せず、移植以外に治療がなくなることもある。

 改正臓器移植法が昨年7月に全面施行。脳死ドナー(臓器提供者)の年齢制限が撤廃され、海外に頼らざるを得なかった小児の心臓移植の道は開かれた。しかし、小児ドナーはこれまでに1人。親の心情面などもあり、今後の提供も限定的との見方が強い。

 法改正で脳死ドナーが急増したが、心臓移植を希望して日本臓器移植ネットワークに登録している待機患者は171人(2日現在)に上る。移植を受けるまでに平均2年以上を要し、その間に亡くなるケースもある。

 「岡山大が誇る心臓外科手術と心筋の再生医療を組み合わせれば、生存期間を大きく延ばすことができ、移植を受ける機会が増すはず」と研究をけん引する王英正教授。

 岡山大病院では、心筋症への治療応用も検討する。研究のさらなる進展は、より多くの患者の希望となるだろう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年05月25日 更新)

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