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(19)脳疾患 岡山旭東病院 柏原健一神経内科部長 パーキンソン病、てんかん… 年間延べ1万人を診察

脳のMRI画像を前に病状を説明する柏原部長

 「頭が晴れないのはパーキンソン病のせいだと思われます。薬を試してみましょう」

 2週間前から頭が重いという新患の高齢男性に、柏原は穏やかな口調で告げた。

 この男性にはパーキンソン病に特有の運動障害は見られない。しかし、姿勢や手足の動き、腱けんの反射のチェック、脳のMRI(磁気共鳴画像装置)検査、記憶テストなどの結果を総合し、「兆候は出始めている」と判断した。薬が効けば、そのことが証明される。

 「教科書通りでは、対応が後手に回ってしまうんです」。数々の複雑な症例を扱ってきたからこその診断。診察する患者は年間延べ1万人に上る。病院を訪れる脳疾患患者の多くが一度は神経内科を受診するため、極めて多忙だ。しかも疾患の種類は幅広い。この日診察した患者も、パーキンソン病、片頭痛、てんかん、認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など多岐にわたった。

 疾患の特定に加え、神経内科で担当するか、ほかの診療科で診るかを決めるのも重要な仕事。入院患者が最も多い脳卒中は神経内科が投薬やカテーテル手術で対応することもあれば、脳神経外科で手術することもある。神経障害も頸椎けいついの変形が原因となれば、整形外科に振り分ける。脳卒中の再発防止など術後のフォローという役割も。診療科間の連携を図ることに加え、自身もさまざまな疾患に対する知識を深めておく必要がある。

 「探検家になりたかったんです」。経歴を問うと、意外な言葉が返ってきた。「未知の世界を探りたいが、海や山の探検は体力的に無理だと思い、フィールドを人の脳に決めた」という。大学院時代に神経精神科を専攻。薬により、症状が目に見えて改善するパーキンソン病に関心を持ち、専門とした。

 しかし、卒業後の勤務地では専門にこだわらず、「行った先で学べることを最大限に吸収した」。初任地の高知の病院では神経内科を担当。ここでは、患者に温かい言葉を掛け、回復への前向きな姿勢を引き出せば治療効果が高まることを先輩医師から学んだ。山口では、小児難治性てんかんが治療と成長によって回復していく側面を知った。

 米国留学では、遺伝子を組み替えた培養細胞を使い、パーキンソン病で不足するドーパミンの制御を研究。この経験は、今の投薬治療の参考になっている。

 治療経験豊富な柏原だけに、比較的軽い症状の中に、命にかかわる病気が隠れているリスクを忘れない。軽い頭痛でも、その原因に一定の割合で脳腫瘍が含まれることもある。「思い込みが一番怖い」と、常に別の可能性を考慮。薬が効かなければ、早期に別の薬に切り替えるなど柔軟な対応を心掛ける。診療科間に限らず、放射線技師、看護師、リハビリのスタッフらとの情報交換も積極的に行う。

 パーキンソン病の場合、ふるえ、筋肉のこわばりなどの運動障害のほか、便秘、睡眠障害、うつ、認知障害といった多様な症状が現れる。病気の進行を抑えながら症状を取り除くには、十数種類もある薬のさじ加減がものをいう。

 カンファレンスで助言を受ける神経内科の後輩医師、浜口敏和(28)は「症状に合わせた薬の選び方や投与のタイミングを学ぶ絶好のチャンス」と期待する。

 柏原は言う。「本当の治療とは、医師が経験に基づき、患者さん一人一人が希望する暮らし方に合わせて組み立てるもの」。患者本位の姿勢は終始一貫している。

 (敬称略)

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 かしはら・けんいち 岡山大医学部卒、同大大学院修了。高知県立中央病院神経内科医員、国立療養所山陽荘病院(現国立病院機構山口宇部医療センター)神経科医長、岡山大付属病院神経内科講師、岡山旭東病院神経内科主任医長などを経て今年2月から現職。趣味は旅行と読書。

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 外来 柏原部長の診察は新患外来が月・水曜日の午前中。再診が火・木曜日の午前で要予約。

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岡山旭東病院

岡山市中区倉田567の1

電話086―276―3231

メールアドレス

kikaku@kyokuto.or.jp

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 神経内科 脳、脊髄、末梢まっしょう神経と、それらによって動かされる筋肉の疾患を診断、治療する。頭痛、めまい、体の動きの悪さやしびれ、けいれん、意識障害、物忘れなどの症状を扱い、救急対応を必要とする脳梗塞などの脳血管障害、慢性疾患であるパーキンソン病、認知症、てんかん、多発性硬化症などが含まれる。疾患によっては脳神経外科、整形外科、一般内科、精神科と連携する。精神的な問題を原因とした身体の異常を診る心療内科とは異なる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年06月06日 更新)

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