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乳がん(おおもと病院) 絆―患者と主治医 病魔との闘い二人三脚

話し合う山本名誉院長(右)と患者

 前回(5月16日付メディカ)に続いて乳がん特集―。乳がん手術が年間200例を超すおおもと病院(岡山市北区大元)での患者と主治医の絆、患者会活動、診断・治療の様子のほか、岡山大学病院(同鹿田町)と倉敷中央病院(倉敷市美和)の最近の治療動向について紹介する。

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 「先生、お久しぶりです。手術から10年たちました」―報告する遠藤麻里さん(仮名)。笑顔で主治医の山本泰久おおもと病院名誉院長を見つめる。

 「ようがんばったなぁ、まぁ、いつ次のがんが出るか分からんから、気を抜かんようになぁ」。安堵あんどの表情を見せていた患者に厳しい言葉があった。「はい」。生命を脅かすがんと二人は共に闘った。遠慮のないやりとりが患者と主治医の絆を感じさせる。

 「あれっ」。入浴中、右の乳房にへこみがあった。翌日、職場のパソコンで「乳がん」と打ち込んだ。読むと疑いが消えない。近くの病院を受診、おおもと病院への紹介状が手渡された。山本医師は右胸の乳頭付近にあるへこみをじっと見、指で触診した。腫瘍マーカーや炎症反応を調べる血液検査、がん病巣の位置、範囲を確認する画像診断が行われた。父、母、娘を前に「乳がんです。手術しましょう」。急展開の告知。

 「入院手続きをしていた時、急に涙が出て止まらなかった」(遠藤さん)

 「直径4センチ、乳頭に近く、簡単な手術ではない。腫瘍マーカー値も高い」(山本医師)

 3日後、手術。乳腺とがん病巣を切除。リンパ腺への転移はなかった。同時に形成術が行われ、乳頭は残された。

 「30歳と若くホルモン活性があり血流が多いので転移する可能性が高い。まず確実にがんを取る。そして手術跡を美的にしてあげたい。そう思い、メスを持った」(山本医師)

 「患者は信頼し、お任せするしかないんです」(遠藤さん)

 3週間で退院。抗がん剤投与、ホルモン療法が始まった。毎月1回、通院し注射を受けた。再発させないことが、主治医と患者の共通目的になった。目に見えないがんとの闘いは1年が過ぎ、2年が終わった。「もう、来なくていいよ」―笑顔で言われた。高かった腫瘍マーカー値は下がった。

 「髪の毛は抜けなかったが副作用は若干あり、再発という爆弾を抱え、心身ともに大変でした。もうよいと言われ、一人トイレで泣きました」(遠藤さん)

 5年たった。

 「やっと一山越えた」(山本医師)

 「年1回の検査でよいと言われたが、半年に1回診てくださいとお願いしました」(遠藤さん)

 10年たった。

 「休日はゴルフで体を動かし、栄養バランスを考えよく食べ、よく寝ています」(遠藤さん)

 治療が長期化するがん。大事なのは主治医と患者のコミュニケーション。しかし、医学知識がなく、不安を抱える患者と医師には大きなギャップがある。症状をどう伝えるか。どういう治療を望むかという意思表示。手術、抗がん剤、放射線と段階的に進む治療の中で自分はよくなる見通しがあるのか。治療効果が上がっているのか―知りたい、聞きたいことばかり。

 「インターネットで情報を取り、先生に率直に聞きました。山本先生ははっきり言われる。隠されるよりその方がよい。主体的に考え、納得して治療を受けた」(遠藤さん)

 乳がんと消化器がんの専門病院として知られるおおもと病院。山本名誉院長は岡山大学病院総医局長時代から胃、大腸、乳がん手術に取り組み、これまでに関わったがん手術は1万例に及ぶ。「一人ひとり病状は異なり、医師は1対1で真正面から患者さんに説明し治療し悩みに耳を傾けることが肝心」

 主治医と患者の二人三脚はまだ続く。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年06月06日 更新)

タグ: がん女性おおもと病院

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