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肝がん(岡山済生会総合病院) 薬物療法 ウイルス駆除や進行抑制

高木敏行内科医長

エンテカビル投与群と未投与群の累積死亡率

 C型やB型肝炎から肝硬変、肝がんへの進行を防ぐには、インターフェロン(IFN)などを使い、肝炎ウイルスを体内から駆除する抗ウイルス療法が効果的。局所治療ができないがんでも、分子標的薬で進行を抑える治療が出てきている。

 C型肝炎ウイルス(HCV)には、ペグインターフェロン(ペグIFN)と、抗ウイルス薬・リバビリンの併用療法が有効。ペグIFNは、抗ウイルス効果と免疫力を高める作用のあるIFNにポリエチレングリコール(ペグ)を結合させ、効果の持続性を高めた。従来は週3回だった注射が週1回で済み発熱、だるさなどの副作用が軽減された。

 ペグIFNは最初の1〜2週間は入院、その後は通院で注射を続け、リバビリンは毎朝夕、服用する。投与期間は半年〜1年半程度。開始から半年以上たってもウイルスが陰性化しなかったり、白血球や血小板数が低下したりした場合などは中止する。

 高木敏行内科医長は「併用療法は75歳まで可能だが、若い人ほど有効。特に日本人感染者の大半を占め、IFNが効きにくかった『1b型で高ウイルス量』タイプでも、50〜60%に効果がある」と推奨する。

 B型肝炎ウイルス(HBV)の治療薬は、IFNと核酸アナログ製剤。IFNは週3回の注射を半年〜1年程度続け、自宅で自己注射することも可能。「B型でも、週1回の注射で済むペグIFNが近く使えるようになりそう」と高木医長。

 核酸アナログ製剤は、HBVが複製・増殖するのを妨げ、肝機能を向上させる。副作用がほとんどなく、特にエンテカビルは、従来の薬に多かった薬剤耐性ウイルスの出現率が低い特長を持つ。岡山済生会総合病院で肝がん患者10人に投与すると、再発は抑制できなかったが、生存率は改善し、最長約4年間で死亡例がなかった=グラフ参照。

 ただHBVの根絶はできず、1日1粒を長年飲み続けなければならないが「肝硬変の進行を防ぎ、生存期間延長や発がん抑制の効果があると考えられる」(高木医長)。同製剤治療やB、C型肝炎のIFN治療は保険が使え、医療費の助成制度もある。

 一方、抗がん剤で注目されているのが、分子標的薬「ソラフェニブ」。がん細胞内の遺伝子やタンパク質などの分子を標的にし、がんの増殖と、栄養を得る血管を作る働きを同時に阻害する。

 肺や骨へ転移、門脈に浸潤などがあり切除不能な肝細胞がんの治療薬として2009年5月、保険適用された。肝機能の良好な患者が対象で、毎朝夕服用する。手足の皮膚炎、下痢、高血圧などの副作用に注意が必要。

 同病院では、これまで23人に使い「肝がんは従来、抗がん剤が効きにくかったが、腫瘍が縮小し延命効果が見られた人もいる」と高木医長は言う。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年06月20日 更新)

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