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肝がん(天和会松田病院) 治療 患者の立場で選択肢示す

松田病院・松田忠和院長

肝臓の構造

 1980年以前、肝がんの切除は手術死亡率が20%超、5年生存率は10%台。文字通り命を懸けた大手術だった。その後の進歩は目覚ましく、最新の全国集計では、手術死亡率は1%未満、5年生存率も54・2%まで向上し、手術の安全性はほぼ確立された。

 天和会松田病院のデータでは、5年生存率は64・6%。がんの大きさが直径10センチ以内なら70・6%に達する。松田忠和院長は「技術とともに治療の迅速性が物を言う」と強調する。

 技術面では、レーザー止血装置や超音波メス、マイクロ波・ラジオ波の手術器具が普及し、止血が容易になった。さらにCT(コンピューター断層撮影)でミリ単位の立体画像を作製し、手術前にシミュレーションして切除部の体積まで計算できる。MRI(磁気共鳴画像装置)もがんの鑑別診断に有用だ。

 肝がんは枝分かれする門脈に沿って肝臓内へ転移する。解剖学的知見と技術革新により、がんのある門脈枝の領域ごとに切除する系統的切除が可能になった。出血量も大幅に少なくなっている。

 術後の急変時の対応も予後を大きく左右する。松田病院では、連絡を受けた放射線技師が5分以内に駆けつけ、松田院長自らカテーテル治療を開始する。手術室スタッフの半数以上は医療機器に精通した臨床工学技士で、一人が何役もこなす。小回りのきく専門病院ならではの体制だ。

 肝切除の適応は悩ましい。科学的根拠に基づく「肝癌がん診療ガイドライン」(前回6月20日付メディカ参照)は松田院長も尊重する。それでも「肝障害度Cなら移植と緩和だけ。移植ドナーもいない若い患者に、緩和しかないと言っていいのか。ガイドラインの隙間に置かれる患者がたくさんいる」と話す。

 初診で時間をかけてじっくり説明し、切除手術、ラジオ波焼灼術、カテーテル治療の肝動脈塞栓術の可能性をとことん話し合う。経験に基づいて「私があなたの立場だったらこうすると思う」という選択肢を示す。

 患者が決断したら、なぜその治療法を選んだのかを尋ねる。お互いに納得すれば信頼関係が生まれる。「たとえ結果が出なくて患者の状態が悪くなっても、ベッドサイドに座り、手を握って話しかける。気持ちが通じていることが一番大事」と松田院長は強調する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月04日 更新)

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