文字 

肝がん(岡山大学病院) 肝移植 再発危険を最小限に

岡山大学病院肝胆膵外科・八木孝仁教授

1996年の第1例以来、実績を積み重ねてきた岡山大学病院の肝移植手術は緊張の場面の連続だ

 他の臓器がんに比べ、肝がんは早期から肝内転移しやすいが、肝外へは容易に出て行かない。この特徴のおかげで、もう一つの治療選択肢として肝移植があり得る。ただし、善意のドナーを必要とする移植は、他の治療と同じ考え方で臨むわけにはいかない。

 中四国の肝移植センターとなっている岡山大学病院(岡山市北区鹿田町)のチーフ八木孝仁教授(肝胆膵かんたんすい外科)はこれまでに270例の移植を手がけてきた。「移植は基本的には肝不全に対する治療。肝不全に合併するがんが比較的早期で、他の治療ができない場合に限られると思っている」と話す。

 具体的には、世界的に認められた「ミラノ基準」が判断の目安になる。血管への食い込みや肝外への転移がなく、長径5センチ以内のがんが1個、または3センチ以内のがんが3個以内―とする基準を超えると、再発の危険が高まり、生存率が低下するという研究だ。

 日本の診療ガイドラインもこの基準を移植の適応とし、保険適用の条件にもなっている。

 同病院のデータでも、ミラノ基準内では5年生存率は82%と良好だが、基準を超えると56%に低下する。再発例の標本を調べると、がんが少し血管に食い込んでいたり、小さな腫瘍血栓が見つかることが多い。術前の画像診断では分からなくても、がんが門脈に潜んで再発の芽を残していることがあるのだ。

 原因ウイルスがB型かC型かによっても予後は異なる。B型は核酸アナログ製剤を使っていけば、肝炎の再発はほとんどない。

 C型は移植後もほぼ百パーセントの確率で再びウイルスが増殖する。しかし、うち3分の2は肝炎を発症しないことが分かってきた。残る3分の1の患者は肝炎が再燃し、肝硬変やがん化を防ぐため、インターフェロンなどの治療を再開しなければならない。

 移植では、免疫系がドナーの新しい肝臓を「異物」とみなして攻撃する拒絶反応の抑制と、感染症の防御とのバランスが難しい。C型の患者は感染症に弱く、強い免疫抑制をためらう施設も多いが、八木教授は初期の免疫抑制が肝心だと言う。肝炎再発にかかわると考えているからだ。

 ドナーの肝臓内には新しい免疫細胞が含まれている。「不用意に拒絶反応を起こすと、ドナー由来の新鮮な免疫細胞が生き残らず、肝炎を防ぐ働きをすることができないのではないか」と説明する。

 移植は技術的に高度な手術で、術後もいろいろな合併症と闘わねばならない。しかし、成功すれば患者は社会に戻って活躍することができ、QOL(生命・生活の質)に最も優れた治療法だ。八木教授は「がん再発の危険は常にあるが、危険を最小限にとどめられる段階で移植したい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月04日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ