文字 

(13)性感染症 川崎医大産婦人科学講師 藤原道久

 ふじわら・みちひさ 1977年川崎医大卒。国立東信病院産婦人科、勝山病院産婦人科医長、川崎病院産婦人科部長などを経て、現在川崎医大産婦人科学講師、同大川崎病院産婦人科医長。日本産科婦人科学会専門医、日本性感染症学会認定医。

図1、図2

グラフ1、グラフ2

 性感染症とは性行為あるいはその類似の行為により感染する疾患の総称であり、現在では20を超える疾患がその範疇はんちゅうに入ると言われています。

 女性の体は腟ちつ内から子宮腔くうおよび卵管を通じて骨盤腔内へと通じており、腟内に侵入した性感染症の原因微生物の一部は上方向へ向いて波及し、子宮頚けい管炎、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎へと進展することがあります=図1参照。

 2000年に制定された「性感染症に関する特定感染症予防指針」では、性器クラミジア、性器ヘルペス、尖圭(せんけい)コンジローマ、淋(りん)菌感染症、梅毒―の5疾患を性感染症としており、梅毒は全数調査、他の4疾患は定点調査としています。

 定点報告の4疾患の年次推移(厚生労働省報告)をグラフ1に示します。性器クラミジアが圧倒的に多く、性器ヘルペスが続き、尖圭コンジローマおよび淋菌感染症はほぼ同数となっています。

 性器クラミジアは03年から、淋菌感染症は04年から減少傾向が認められており、性器ヘルペスおよび尖圭コンジローマに関してはほぼ横ばい状態が続いています。年齢別報告では、4疾患すべてが20歳代前半にピークがあります。

 川崎医科大学付属川崎病院産婦人科での集計においても、性器クラミジアおよび淋菌感染症の数は年々減少傾向にあります。

 その原因は、性感染症検査希望の若年者の減少が一番と考えます。その理由は、症状があって受診された方の性感染症陽性率はほぼ一定で推移しているからです。

 全数報告の梅毒の年次推移(厚生労働省報告)をグラフ2に示します。04年より増加傾向が認められており、特に症状の無い無症候梅毒の増加が目立っています。

 今まで述べてきた患者数は医療機関を受診した性感染症患者の届出数であり、無症状で医療機関を受診していない無症候性感染症は多く存在していると考えられています。性器クラミジアに関しては女性感染者の70〜80%が無症候と言われており、また無症候のクラミジアや淋菌咽頭感染も存在します。このような無症候性感染者は、自覚症状のないまま感染源となり、新たな感染者を増加させています。

 近年の日常的な性関係の多様化に伴い、性活動の活発な若年者を中心に、無症状の性感染症が知らず知らずの間に広く蔓延まんえんしています。今や性生活を持つ人々にとって性感染症は「国民病」とか「性生活の生活環境汚染」さらには「性生活の生活習慣病」と言えるほどまでになっています。よって性交渉の際には、いつも正しくコンドームを使用して感染予防をしっかりと行っていない限り、無症状の性感染症をうつされないという保証はありません。

 もはや性感染症は、風俗街で遊んだ人々のかかる感染症ではなく、性生活を持つ人なら全ての人に感染の可能性があります。不道徳とか不潔という偏見をなくし、「もしかしたら自分も感染しているのかもしれない」と考え、自らの性の健康を守るためにも検査を受け、予防に努めていく必要があります。

 なお性感染症に罹患りかんした場合には、適切な治療により、完治させることが可能です。その際には、パートナーとの同時治療が原則であり、パートナーの治療を行わなければ、パートナーからの再感染により感染を繰り返します。このようなピンポン感染を予防する意味でも、パートナーとの同時治療が必要です。

 最後に、現代の性感染症の特徴を図2に示します。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月04日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ