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移植医療の今 改正法施行1年(2)ドナー 脳死増も圧倒的に不足

福山市民病院から肺が入った搬送用ケースを運び出す岡山大病院の医師ら。臓器移植法の改正で脳死ドナーは急増した=昨年11月26日

 「移植が欧米並みの『通常の医療』となるには法改正は欠かせなかった。少しずつだが、環境は整ってきた」

 岡山大病院(岡山市北区)の大藤剛宏・肺移植チーフは、改正臓器移植法の全面施行(2010年7月17日)からの1年間をこう振り返る。

 法改正で本人の事前拒否がなければ、家族の承諾で脳死による臓器提供が可能となり、脳死ドナー(臓器提供者)は大幅に増えた。

 翌8月、関東地方の病院に入院していた20代男性を最初に、11月には福山市民病院(福山市)の60代男性、11年2月には津山中央病院(津山市)の40代女性など、法改正後の脳死ドナーは55人に上る。年間最多だった07、08年(各13人)の4倍を超すドナーから心臓や肺、肝臓、腎臓などが提供され、245件の移植が行われた。

 岡山大病院では10年9月、ドナー不足で順番が回ってこなかった脳死肝移植を初めて実施。国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区)も11月に初の脳死腎移植を行った。

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 法改正後の脳死ドナーの急増は、移植医療への関心の高まりのようにもみえる。だが、移植関係者の捉え方は少し異なる。

 「増えているのは脳死ドナー。全体を見ればドナーの数は大きく増えてはいない」。田中信一郎・日本臓器移植ネットワーク西日本支部長補佐(岡山医療センター診療部長)はこう指摘する。

 移植ドナーには三つの形態がある。2度の脳死判定を受ける「脳死」、心臓が完全に停止した患者からの「心停止」(主な提供可能臓器=腎臓、角膜)、健康な人が親族のために臓器の一部を提供する「生体」(同=肺、肝臓、腎臓)だ。

 10年7月から1年間の心停止ドナーは78人。最多の06年(102人)より24人少なく、09年まで10年間の平均(83・6人)より低い水準だった。

 田中支部長補佐は「臓器提供意思表示カードの所持、提供意思の記入という法改正前の条件をクリアできずに心停止で提供していたドナーが、条件が緩和された脳死に移行した」と分析する。

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 6月下旬、移植医療に取り組む関係者を落胆させるニュースが全国を駆け巡った。

 腎不全を患った現役医師による臓器売買事件。報酬を支払い、養子縁組した健康な人から腎臓の提供を受けたとして、臓器移植法違反(臓器売買の禁止)などの疑いで警視庁に逮捕された。

 この事件には、圧倒的なドナー不足が背景にあるとされる。

 移植ネットによると、脳死とされる状態になるのは全死亡者の1%弱という。10年は国内推計死亡者が約119万人だから、約1万人が脳死になった計算だ。

 これに対し、移植ネットに登録する患者(6月末現在)は、最多の腎臓が1万1910人、肝臓352人、心臓177人、肺150人―など。この1年間の脳死ドナー55人の数を見ても、到底カバーできないのが現状だ。

 希望する移植が間に合わず、命を落としていく患者を見てきた大藤肺移植チーフは言う。「1万分の55という数字は欧米に比べればまだまだ少ない。今後も積極的に情報発信し、移植医療への関心を高めたい。そうすれば、ドナーは増えるはずだ」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月18日 更新)

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