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(22)骨がん 岡山大学病院整形外科 尾崎敏文教授(49) QOL守り、家族に安心を 難易度高い回転形成術も

治療の経過について丁寧に説明する尾崎教授

 「経過は順調です。4カ月後くらいにまた状態を確認しましょう。お大事に」

 骨や筋、神経などの疾患・外傷の治療を行う岡山大学病院整形外科の診察室。尾崎がパソコンの電子カルテを見ながら落ち着いた口調で説明すると、女性は安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 女性は2009年、骨腫瘍がもとで左ふくらはぎに腫瘍ができていることが分かった。かかりつけの病院で手術を受けたが、その後、悪性であることが判明し、岡山大学病院に紹介されてきた。尾崎は病状や体力などを考慮し、手術の可否を判断した。80代と高齢のため外科手術を避け、放射線を照射する治療を行い、現在ほぼ完治した。診察室を出る女性は、笑顔で見送る尾崎に「ありがとうございました」と何度も頭を下げた。

 骨腫瘍には、最初から骨に生じる「原発性」と、他の臓器に生じたがんが転移してくる「転移性」がある。原発性のうち、転移しないものは良性。発生した場所で増殖し、他の組織に転移する可能性があるものが悪性で、一般に「骨がん」といわれる。その代表が10代に発症しやすい骨肉腫だ。1970年代には発症して5年後の生存率が10%程度といわれたが、医療の進歩に伴い現在の5年生存率は80%近くにまで上がった。

 治療は、画像診断で腫瘍の広がっている範囲を特定、抗がん剤を投与して小さくなった腫瘍を切除する。切除後、代用となる人工関節を埋め込むなどする。手術後も抗がん剤を使って転移を防ぐ。

 尾崎は「“患者の安心と納得”にこだわり続けている」と言う。治療終了までに1年程度必要なため、患者の負担は心身ともに大きい。「患者のQOL(生活の質)を守り、家族に安心を与えることは医者の務め」。手術に関して患者と十分に話し合い、治療法選択の理由を説明する。

 医師を志したのは小学生の時、家族の病気がきっかけだった。「人を助けて感謝される、やりがいのある仕事をしようと心に決めた」。1987年に岡山大大学院に進み、骨軟部腫瘍治療を研究テーマに定め、臨床活動にも力を入れた。

 ドイツ・ミュンスター大学整形外科で2度、計5年間の長期留学を経験した。がん切除などで失われた骨や筋肉の機能や形を取り戻す「四肢再建手術」の技術を磨いた。「多くの優秀なドクターの指導や技術に触れたことが今の自分につながっている」と振り返る。

 尾崎は、さまざまな技術を用いて切除範囲を狭める「患肢温存術」、がんに侵された骨を熱処理して殺菌し再利用する「加温骨処理」などに精通。国内でも数カ所でしか行われていない「回転形成術」など、難易度の高い手術も手掛ける。

 一方で、国内の医療機器メーカーと協力、人工関節の高度化にも努める。尾崎らのグループは、合成繊維ポリプロピレンを使うことで筋肉と強く結びつかせ、本物の関節に近い動きを可能にし、耐用年数も伸ばした。

 また岡山大学病院整形外科を、中四国から年間延べ約3万人の患者が受診する、設備・スタッフの充実した国内トップレベルの治療施設に発展させた。

 その尾崎が特に重要視するのが、治療のための迅速な診断だ。MRI(磁気共鳴画像装置)での患部撮影や先端技術を用いて遺伝子を調べることで、診断の精度も高めている。

 「重要なのは早期の正確な診断と適切な対応。特に診察医の間違った対応で患者が不幸になることはあってはならない。異常があればすぐ当院に情報が寄せられる体制づくりに取り組みたい」と、県内外で医師を対象にしたセミナーを開くなど啓発に努めている。

 がんが全身転移した子どもを懸命に治療したが、手の施しようがなかったかつての経験を今も思い出す。「一番つらいのは、自分を頼りにする人を助けられないこと。もう少し早ければ、なんとかなったかもしれないという思いをしたくない。これからもベストを尽くす」 (敬称略)

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 おざき・としふみ 観音寺一高、岡山大医学部卒、同大大学院修了。1996年に岡山大医学部整形外科助手となり、2002年、ドイツ、オーストリアなどドイツ語圏の大学で整形外科教授となる資格を取得。05年6月から岡山大大学院医歯薬学総合研究科生体機能再生・再建学講座(整形外科学)の教授を務める。

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 回転形成術 膝関節などに腫瘍ができ、脚の切断が必要と判断された場合、以前は処分されるだけだった健康な足首を、180度回転させ、膝上の残った脚の部分とつなぎ、膝関節の代わりとして機能させる手術法。その後、脚に義肢を装着する。人工関節を使わず、運動機能を残すことができる。

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 外来 尾崎教授の外来は月、木曜日の午前中。原則予約が必要で、初診の受け付けは午前9時〜同11時。

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岡山大学病院

岡山市北区鹿田町2の5の1

電話086―223―7151
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月19日 更新)

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