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大腸がん(岡山済生会総合病院) 治療 直腸がん 8割が肛門温存

腹腔鏡による結腸がんの手術。おなかに開けた穴からカメラを入れ、画像を見ながらがんを切除する=岡山済生会総合病院

大腸がんの病期と術後5年生存率

赤在義浩部長

 がんシリーズ第3弾は大腸がん。検診などで早期発見できれば、手術や内視鏡治療で根治が可能な比較的治しやすいがんだ。ただ、進行がんで見つかることも多く、2009年は全国で4万3千人が亡くなった。がんの部位別で肺、胃に次いで3番目に多く、女性に限れば最も多い。岡山県内で有数の治療実績のある岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)と岡山大学病院(同鹿田町)で診断や治療について聞いた。

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 大腸がん治療の基本は外科手術。ただ、「結腸がんと直腸がんでは手術の難しさや後遺症が全く違う」。岡山済生会総合病院の赤在義浩診療部長(外科)は指摘する。

 結腸がんの場合は、がんと前後20センチほどの結腸、さらに転移を防ぐため周辺のリンパ節を切除し、残った腸管をつなぐ。切除する結腸が多くても、術後の機能障害はほとんどないという。

 一方、直腸は骨盤内の深く狭い所にある。周囲にはぼうこう、前立腺、子宮、卵巣などの泌尿・生殖器や排尿、排便、性機能をコントロールする自律神経があり、執刀医は細心の注意を要する。

 手術は神経を温存しながらがんと周辺の直腸、リンパ節を切除するのが標準的。だが、神経近くにがんが及んでいると神経も切らざるをえず、術後は失禁などの障害が出る。

 同病院では、結腸がんの手術は2時間程度で、入院は術後8〜10日。一方、直腸がんは手術に6〜7時間、入院も術後14〜20日と、結腸の倍かかる。

QOL

 直腸がんの手術を受ける患者が気になるのは肛門を残せるかどうか。がんと一緒に肛門まで切除すると、代わりに結腸の出口をおなかに開けて人工肛門をつけることになる。人工肛門に取り付けた袋に流れ込む便があふれないよう常に気をつけるなど、患者の負担感は大きい。

 かつては再発、転移を防ぐため広く切るのが主流だった。近年は術後のQOL(生活の質)を考え、できるだけ肛門を残す考えが広まっている。

 山陽新聞社が今年春、岡山県内に7施設あるがん診療連携拠点病院に行ったアンケートでは、患者の進行度などが異なり病院で差はあるものの、肛門を温存したケースが直腸がん手術の54〜88%を占め主流となっていた=左面の表参照。

 岡山済生会総合病院でも肛門温存手術が80%を占めている。ただ、無条件で残せるわけではない。赤在部長によると、温存の条件は、肛門の約1・5センチ奥の歯状線(肛門と直腸の境界)から1センチ以上がんが離れていて、残った腸管と肛門をつなぐことができ、肛門を締める肛門括約筋も半分は残せること。

 さらに、がんの位置にかかわらず、深く進行していると、肛門を切除せざるをえない場合もあるという。

腹腔鏡

 大腸がん手術で近年普及してきたのが腹腔(ふくくう)鏡手術。おなかの3、4カ所に開けた穴から小型カメラや手術器具を入れて行う。岡山県内の拠点病院では大腸がん手術の14〜47%を占めていた。

 腹腔鏡手術でもがんを摘出するためにおなかを5〜6センチ切るが、傷は通常の開腹手術の3分の1から4分の1と小さく、術後の痛みは少なく回復も早い。通常はおなかを縦に切るのに、腹腔鏡手術は横に切るため、傷の治りがきれいで目立たないのも長所という。

 岡山済生会総合病院では、大きな開腹手術を過去に受けておらず、臓器が癒着していない▽リンパ節転移が少なく、がんがあまり進行していない▽著しい肥満や循環器の病気がない―などの患者に腹腔鏡手術を検討している。

 カメラの画像を見ながら器具を操る医師には高度な技術が求められ、手術時間は通常より長くかかる。赤在部長は「腹腔鏡手術はリスクが大きく、難しい症例は開腹でないと対応できない。傷が小さくても、がんを取り残して再発、転移しては手術の意味がない」とくぎを刺す。

抗がん剤・放射線治療

 がんが進行して肝臓や肺、腹膜などへ遠隔転移し、手術で切除しきれない場合、抗がん剤による化学療法で延命を図る。ここ1、2年で新薬が相次ぎ登場。高額で下痢や食欲不振、脱毛などの副作用を伴うことはあるが、延命期間は延びているという。併せて、痛み止めのため放射線治療を行うことがある。

 岡山済生会総合病院では、ステージ3期の患者にも術後の再発や転移を防ぐ補助化学療法として、飲み薬の抗がん剤を6カ月間、服用してもらうことがある。

5年生存率

 岡山済生会総合病院では、大腸がん根治の目安となる術後5年生存率が、患者の多いステージ2、3期の進行がんでも7〜8割を超えている=表参照。患者には術後6年間、進行度などに応じ4カ月〜1年に1回、検査を受けてもらう。

 治しやすいがんであることを踏まえ、赤在部長が重視するのは術後の後遺症で腸が詰まってしまう腸閉塞へいそくを起こさないこと。「食事の制限につながり、患者で多い高齢者にとっては生活の大きな楽しみを奪われることになる」からだ。

 そのため、手術は多少長くなるが、おなかの臓器を覆う腹膜を残すか、切除しても再建するよう努めている。結果、腸閉塞を起こす患者は1%程度に抑えられている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月18日 更新)

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