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(14)月経にまつわる病状 川崎医大産婦人科学教授 下屋浩一郎

 女性の性周期は、図1に示すように卵巣での卵の発育に伴って女性ホルモンの一つである卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されて子宮内膜が増殖します。基礎体温では低温相に相当し、この時期を卵胞期あるいは増殖期と言います。その後、排卵が起こり、卵巣からもう一つの女性ホルモンである黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。それに伴って基礎体温では体温が上昇します。この時期を黄体期あるいは分泌期と言います。このように排卵のある女性では大きく二つの異なったホルモン状態にある時期があります。

 黄体ホルモンは、子宮内膜を受精卵が着床しやすい妊娠に適した状態に変化させますが、妊娠が成立しないと排卵後2週間ほどで女性ホルモンの分泌が低下します。女性ホルモンが低下すると子宮内膜がはがれ落ちてしまいます。はがれ落ちる子宮内膜と共に出血が起こり、これを月経と言います。

 月経は10歳ごろから始まり(初経)、50歳ごろまで(閉経)の約40年間、女性の生活と切り離すことのできないものです。15歳以上になっても月経が来ない場合や43歳未満で自然に閉経を迎えたような場合には産婦人科を受診し詳しく調べて適切な治療を行う必要があります。

 女性は月経に伴ってさまざまな症状で苦痛を感じることがあります。症状を大別すると表1のようにまとめることができます。これらの症状は年齢や妊娠・出産などによって症状が出現したり、改善したりすることがあります。女性ホルモンは、子宮以外にも骨、血管などのさまざまな臓器に影響を及ぼすので、ホルモン分泌の異常による月経の周期の異常では治療せずに放置することで将来の健康に大きく影響を及ぼすことがあります。

 産婦人科の受診には抵抗感があるかもしれませんが、多くの症状は適切な治療で改善することができますし、子宮筋腫や悪性腫瘍などの器質的な病気が発見されることがあるので、月経にまつわる症状がある場合には早めの産婦人科医の受診をお勧めします。

 月経周期の異常は、思春期や40歳代の女性に多く見られることがあります。血液中のホルモン検査を行うとともに排卵の有無を確認します。妊娠の希望がある場合には不妊治療に準じて排卵誘発の治療を行いますが、妊娠の希望がない場合にはホルモン薬投与による治療を行います。

 月経時の出血が多い過多月経では、子宮筋腫などの器質的疾患がないかどうかを超音波検査で、貧血の有無を血液検査で調べます。過多月経の原因となる子宮筋腫などが見つかった場合はその治療を行います。

 月経時に腹痛や腰痛などの強い痛みがあり、日常生活に支障を来すことを、月経困難症と言います。月経困難症は月経にまつわる女性の不快な症状として最も頻度の多いものです。痛みが軽症の場合には鎮痛薬を投与して治療を行います。

 鎮痛薬の副作用を心配される方も多いですが、痛みを我慢して生活に支障を来すよりは積極的に痛みをコントロールするメリットの方が大きいと考えられます。痛みが重症な場合には子宮内膜症や子宮腺筋症などの病気の有無を調べる必要があります。疾患が見つかった場合には年齢・症状によって治療を選択します。

 月経前になると「イライラする」「気分が沈んでしまう」「体調が悪くなる」というような症状は、多くの女性が経験していると言われています。このような、排卵から月経開始までの時期に現れる身体的(頭痛、腹痛、乳房緊満感など)・精神的不快な症状を月経前症候群(PMS)といいます。

 PMSの症状はさまざまで、排卵のある女性であれば誰にでも起こり得る症状です。症状の度合いも個人差が大きく、日常生活でさえも困難になってしまう人もいます。日常生活に支障を来す場合は、適切な治療が必要であるとされています。

 月経にまつわる症状(月経不順、過多月経、月経困難症、月経前症候群など)に対する治療薬として最近では低用量ピルを積極的に用います。低用量ピルについては副作用を心配される方も多いですが、安全性は高く、過度に心配する必要はありません。月経周期を規則的にし、月経量を減少させ、月経時の痛みを半減させるなどの副効用があり、症状に悩む女性にとっては有効な選択肢です。

 さらに最近では月経困難症に対して保険診療を行うことのできる低用量ピル(ルナベル、ヤーズ)も用いることができるようになり、治療の選択の幅が広がっています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月18日 更新)

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