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(5)肝炎ウイルスキャリアーの動向 川崎医大肝胆膵内科学教授 日野啓輔

日野啓輔教授

 わが国の肝炎ウイルス感染者の掘り起こしを目的として、2002年度より老人保健法に基づく保健事業である肝炎ウイルス検診(節目検診・節目外検診)が開始され、06年度で終了しました。

 全国的に見ると、5年間の節目検診受診率は26%。検診により見いだされた肝炎ウイルスキャリアー(肝炎ウイルスの持続感染者)の医療機関受診率は約80%でしたが、肝臓専門医への受診率はその約半数であり、十分なフォローアップがなされている状況ではないことが判明しました。

 こうした調査結果をもとに各都道府県は独自に定める方法により、新たな肝炎ウイルスキャリアーの掘り起こしや医療機関への受診促進、適切な治療促進などを目的とした肝炎診療体制を構築しました。岡山県も「岡山県肝炎対策協議会」が中心となって肝炎診療体制の充実を図っています。

 そこで、こうした肝炎対策が有効に実施されているか否かを検証する目的で、岡山県肝炎対策協議会ならびに各市町村および県健康推進課の協力を得て、02年度から06年度にかけて岡山県で行われた検診での肝炎ウイルス陽性者の追跡調査を行いました。5年間における肝炎ウイルス陽性者は2566人で、このうち3市町を除く24市町村の1352人(52・7%)にアンケート票を送付し、716人(53・0%)より回答が得られました。

 調査対象外や未回答を除くと、B型肝炎ウイルス感染者(B型)は243人(男77人、女166人、平均年齢66・6歳)、C型肝炎ウイルス感染者(C型)は429人(男142人、女287人、平均年齢72・1歳)、B型+C型が3人(全員男、平均年齢75・7歳)でした。

 医療機関受診率はB型90・1%、C型92・5%。受診時の診断はB型では肝機能異常なし、あるいは軽度異常程度が82・5%であったのに対し、C型は慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんが37・9%を占め、肝炎が進行している例も少なからず認められました。初回受診後も通院を継続している割合はB型が129人(53・1%)、C型が314人(73・2%)で、B型では約半数が医療機関への通院を途中でやめていることがわかりました。

 B型肝炎ウイルスキャリアーは、無症候性で肝機能も安定している場合が大半ではあります。しかし、ウイルス量が多いと炎症の程度とは関係なく肝がんを合併することもあるため、C型同様継続的なフォローアップは大切であり、たとえ肝機能が安定していても定期的な医療機関への受診は継続していただきたいと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月19日 更新)

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