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移植医療の今 改正法施行1年(3)臓器提供病院 公的判定チーム派遣を

津山中央病院の集中治療室。重症患者が集まる集中治療室では脳死とされる状態になる患者も少なくない

 「初めてのことばかりだが、不手際は許されない。緊張しっぱなしの4日間だった」

 津山中央病院(津山市)で2月5日、岡山県内では2例目となる脳死臓器提供が行われた。藤木茂篤院長は脳死判定が確定するまでを、こう振り返った。

 脳死ドナー(臓器提供者)となった40代の女性が県内の他の病院から転院してきたのは2月1日。くも膜下出血だった。午後5時前には脳死とされる状態に。その30分後、健康保険証に臓器提供の意思が記されていることが分かり、家族に提供を打診した。

 翌朝、女性の夫から「話を聞きたい」と返事があった。日本臓器移植ネットワーク認定コーディネーターの安田和広さんが、岡山県臓器バンク(岡山市北区)から駆け付けた。院長に救急医、主治医、安田さんらで入念に協議し2日夜、女性の家族に説明した。

 夫婦は以前、臓器提供について話し合っていたという。「彼女の意思を尊重したい」。家族の決断で、脳死臓器提供は次のステージに移った。

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 ドナー候補が現れた臓器提供病院が、家族の意思確認後に行うのが脳死判定だ。

 生命維持機能を持つ脳幹の反射消失を確かめるなど、数々の検査を実施する。藤木院長は「脳波活動が無くなったことを確認する平たん脳波検査時に、『アーチファクト』を取り除くのに苦労した」と振り返る。

 アーチファクトは「人工産物」の意。医療現場では「偽所見」とも言われ、人や医療機器の影響で脳波が平たんにならない現象を指す。法的脳死判定マニュアルにも「検査室は個室が望ましい」などと例示されている。

 津山中央病院では、最も影響を受けないと思われるCCU(冠疾患集中治療室)を使い、本番前に試験的に女性の脳波を測定した。

 「この脳波で脳死と判定してもいいのか」―。徳島大の専門家に相談して判断を仰ぎ、慎重を期した。

 今後もドナーが現れることを見据え、施設改修でアーチファクトが起きない個室を整備する方針も決めた。

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 2月4日午後、準備を整えた津山中央病院は判定を実施。2回の検査を経て午後10時6分、法的な脳死と判定された。

 翌5日午前、国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区)、国立循環器病研究センター(大阪府)などの移植病院から臓器摘出チームが次々に到着した。

 家族が女性の脳死臓器提供を承諾してから摘出まで、藤木院長を含む医師や看護師、職員ら数人のスタッフは対応に追われ、通常業務をほぼ全面的にストップ。臓器提供に全力を傾注した。

 「大きな労力が必要だったが、ドナーの崇高な意思に沿うことができた。臓器提供により4人の患者さんが移植を受けられたことで、われわれも報われた」と藤木院長は言う。

 悲しみに暮れる家族に臓器提供を提示する苦しさ、脳死判定の難しさや煩雑さ…。提供病院の負担軽減を望む声は小さくない。

 提供病院の一つ、岡山赤十字病院(岡山市北区)の忠田正樹院長は提言する。「公的な脳死判定チームを編成して派遣するシステムがあれば、どこでも同じ水準で判定ができ、現場の負担を軽くすることにつながるはずだ」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月20日 更新)

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