文字 

移植医療の今 改正法施行1年(4)実施病院 手術増でICU不足も

岡山大病院で6月上旬に行われた脳死肺移植。同大病院で臓器移植法改正後の1年間にあった脳死移植は肺、肝臓合わせて15例に上った(同大病院提供)

 「移植の実施病院認定から10年。脳死移植しか道のない患者にとって大きな福音となった」

 2010年9月19日。岡山大病院(岡山市北区)での会見で、同大初の脳死肝移植を執刀した八木孝仁教授(肝胆膵すい外科長)はこう喜びを表現した。

 改正臓器移植法の全面施行(10年7月17日)前に、岡山県内で脳死移植を実施した医療機関は同大病院だけ。それも肺と腎臓に限られていた。

 だが、法改正で状況は一変。脳死ドナー(臓器提供者)が急増し、同大病院では脳死肝移植、国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区)でも脳死腎移植が行われるようになった。

 この1年間で同大病院は5例の脳死肝移植を実施。一方、それまで脳死ドナーが現れなかったことから、生体肝移植は265例を数えた。「(健康な人の体にメスを入れる)生体移植は罪つくりな医療。その後の体調不良など、生体ドナーのリスクを回避できるのは喜ばしい」と八木教授は言う。

■ □ ■ 

 脳死ドナーの増加は、国内の移植医療に多くの利点をもたらした。

 その一つが、ドナーと移植を受ける患者との年齢や性別、臓器サイズの合致だ。10年11月上旬に九州大病院で30代女性から提供された肺は、九州地方在住の同年代の女性に岡山大病院で移植された。

 臓器提供病院と移植病院が近くなるケースも増えた。同月下旬、福山市民病院(福山市)の脳死ドナーから提供された肺は同大病院、腎臓は岡山医療センターに運ばれて移植手術が行われた。

 臓器は血液の流れが止まると機能を失い始める。心臓は4〜6時間、肺は6〜8時間で移植患者の体内で血流を再開させなければならないとされる。

 同大病院の大藤剛宏肺移植チーフは「両病院の距離が近ければ搬送時間が短くなり、余裕が生まれる。移植病院、患者双方にとって大きなメリット」と説明する。

■ □ ■ 

 法改正で、移植医療は「通常の医療」に近づきつつある。だが、そこには新たな問題も浮上してきた。

 心理的な影響からか、3月11日の東日本大震災発生から約1カ月、脳死ドナーは現れなかった。だが、4月8日を境に元のペースに。5月には岡山大病院での脳死移植が急増。4、10日に肺、15日に肝臓、19日には肺の移植が行われた。

 移植患者は手術後、ICU(集中治療室)で数週間から2カ月ほど過ごし、一般病棟に移る。岡山大病院のICUは52床だが、ほかにも高度な医療を手掛けており、常に満床に近い。

 脳死移植は突然、その日がやってくる。移植患者が増えれば、ICUや手術室の運用が難しくなる。

 同大病院は敷地内に新しい中央診療棟を建設中で、13年春の完成時には手術室は現在の13室から20室に増強される。一方、増床が難しいICUの不足に対応するため、一般病棟に、必要な機器を備えた個室の“準ICU”を4室用意する方針だ。

 大藤肺移植チーフは「中四国地方の『移植センター』としてふさわしい、年40例の脳死移植が実施できる体制づくりを進めたい」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年07月21日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ