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大腸がん(倉敷中央病院) 再発 切除可能なら根治目指す

「大腸がんの抗がん剤治療はここ数年で大きく進歩した」と語る鶴田部長。患者は入院せず、通院で点滴を受けることが多い=倉敷中央病院通院治療室

 再発は手術などの際に見えなかったごくわずかな病巣が次第に大きくなってくるものだ。「最初の診断時のステージ(病期)が進んでいるほど、再発の恐れもやはり高い」。大腸がん治療で岡山県内有数の実績がある倉敷中央病院(倉敷市美和)の鶴田淳外科部長は指摘する。

 国内の主な治療施設が参加する大腸癌がん研究会の1991〜96年の症例調査によると、大腸がんの術後再発率は、ステージ1期3・7%▽2期12・5%▽3a期24・1%▽3b期40・8%。同じ大腸がんでも、直腸がんの方が結腸がんより再発しやすい。

 大腸がんの再発の95%以上は手術後5年以内に見つかる。再発せずに5年たてば治癒したと判断されるのは、このためだ。鶴田部長は「再発しても症状のない場合も多く、CT(コンピューター断層撮影)など画像診断は再発の早期発見に有用だ。5年間は必ず定期検査を受けてほしい」と呼び掛けている。

手術 

 大腸がんの再発で多いのは肝臓、肺への転移と、がんがもともとあった場所近くの局所再発だ。

 再発が見つかれば、手術で切除できないかまず検討する。倉敷中央病院は外科、消化器内科、放射線科、病理部の医師が週1回、「キャンサーボード」という会議を行い、診療科の枠を超え、がんに対する治療方針を検討している。

 その結果、「がんをすべて切除でき、切除後も肝臓や肺の働きを十分保てると判断すれば、再発臓器が複数でも手術で根治を目指す」と鶴田部長。高齢の患者が多く、心臓や腎臓など全身状態からみて患者が手術に耐えられるか、手術後に寝たきりにならないかなどQOL(生活の質)も判断材料になる。

 切除が難しい場合、抗がん剤による化学療法や放射線治療などを行う。化学療法後に手術が可能となる場合もある。

 実際に同病院で2008〜10年度に大腸がんの再発が見つかった患者のうち、17・5%の10人が化学療法後を含めた根治手術、64・9%の37人は化学療法、残りは放射線や痛みを緩和する治療などを受けていた。

抗がん剤 

 抗がん剤治療はがんの増大を遅らせ、延命と症状のコントロールを図るのが目標。大腸がんでは「フルオロウラシル」とその効果を強める「レボホリナート」を組み合わせて使うのが基本。加えて「オキサリプラチン」か「イリノテカン」を併用することが多い。

 さらに、分子標的薬という新しいタイプの薬が2007年以降に登場。現在、大腸がんに適応のあるものは3種類あり、いずれかを従来の薬と併用することで「より強い効果がある」(鶴田部長)。治癒は難しいが、平均的な生存期間が2年以上に延びたという報告もある。

 倉敷中央病院は抗がん剤の通院治療室があり、患者は2週間に1回、通院し点滴を受ける。点滴は48時間かかり、最初の2時間は病院で受け、帰宅後も携帯式の器具で継続。点滴が済めば自分で針を抜いたり、病院に来てもらい処置する。

 薬によっては下痢や吐き気、脱毛、手足のしびれなど重い副作用を伴う。2〜3カ月ごとに検査で効果を確かめ、副作用と合わせ治療方針を見直す。

 治療費は高額だ。例えば身長160センチ、体重50キロの患者が分子標的薬の「セツキシマブ」とイリノテカンなどの併用治療を受けると、検査料なども含め3割の患者負担分が月30万円近くかかる。ただ、「高額療養費」制度を利用すれば、70歳未満で一般的な所得の世帯の場合で、月8万6千円余を超えた治療費は後に払い戻される。

 また、分子標的薬のうちセツキシマブなど2種類は事前の遺伝子検査で効果があるかが分かり、無駄な治療を避けられる。鶴田部長は「以前は大腸がんに有効な抗がん剤は少なかったが、この5年間で大きく進歩した。確かに負担は重いが、希望を持って治療してほしい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年08月01日 更新)

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