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(6)外科手術と肝移植 天和会松田病院院長 松田忠和

松田忠和院長

 肝がん治療のうち、肝切除は、がんを含めて肝臓の一部を取り除く手術で、切除した瞬間に目に見えるがんが消えてしまうという最も確実な治療法の一つです。最近では腹腔ふくくう鏡による肝切除も徐々に行われつつありますが、適応は限定されており、一般には比較的大きな皮膚切開を必要とします。

 術後の入院期間は約2週間で、合併症には出血、胆汁漏、肝不全などがあります。手術による死亡率は、全国平均で1〜2%程度とされていますが、今や熟練した医師とチームで行えば、まず直接の死亡はほとんどないといえるまでに治療成績は向上しています。

 肝切除の対象となるか否かは、(1)腫瘍側の因子と、(2)肝予備能(肝障害度)によって決定されます。腫瘍側の因子とは、がんの大きさ、数、分布などをいいます。一般に比較的大きながんや、単発または少数のがんの場合には肝切除が選択されますが、施設の肝切除に対するスキルや経験症例数によっても異なります。

 次に肝予備能です。例えば、高度の黄疸おうだんや腹水のある患者さんは、小さな肝切除といえども、肝臓が身体の機能を維持しきれない肝不全を引き起こす危険性が高いため、肝切除の対象にはなりません。

 実際にはさまざまな肝機能の検査をし、安全に肝切除が行われる基準を参考にして、肝切除の適応や術式が決められます。ただし、非常に巨大な肝細胞がんで高度のリスクがあっても、他の治療法で治療不可能な状態の場合は、ぎりぎりの切除を迫られることもあり、際どい決断をしなければならないこともあります。

 いずれにしても、そのような進行状態で治療をするのではなく、B型あるいはC型肝炎の有無のチェックと、きちんとした経過観察を受けることが大切です。不幸にして肝細胞がんができたとしても、ステージ1での発見例では80%以上の5年生存率もあるため、とにかく疑わしい方は専門医の受診をお勧めします。

 外科的治療のもう一つの選択肢は、肝移植です。わが国では、脳死肝移植は法的には認められていますが、提供者不足などのため、諸外国と比べるとまだまだ少ないのが現状です。岡山大学病院でも、これまで5例しかありません。その代わり、主に近親者から肝臓の一部を提供してもらい、肝臓を移植する生体肝移植は、同病院でも数多く行われ、全国5位の症例数に上ります。生存率も、他施設に全く引けを取らない良好なものです。

 肝がんに対する肝移植は、ミラノ基準に合致する患者さんについては、2004年1月から保険適用となっています。ミラノ基準とは、肝がんの腫瘍側の因子が(1)単発なら5センチ以下(2)3センチ以下で3個以内―の場合を適応とします。

 対象年齢は65歳以下とする所が多く、肝機能の面では肝硬変のために肝切除などの局所治療が困難なケースに、治療法のオプションとして考えられます。もし移植を希望されるなら、主治医に相談するか、岡山大学病院の移植コーディネーターに連絡してみてください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年08月01日 更新)

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