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胃がん(おおもと病院) 手術 機能温存へリンパ節生検

おおもと病院での胃がん手術

胃がんの病期と治療法

磯崎博司院長

 がんシリーズ第4弾は胃がん。国内の死者数は、がんの部位別では肺に次いで2番目に多く毎年約5万人、男性は女性の約2倍に上る。だが、検診などで早期発見できれば、手術や内視鏡治療で比較的治りやすい。おおもと病院(岡山市北区大元)、岡山済生会総合病院(同伊福町)、川崎医大病院(倉敷市松島)で診断や治療法を聞いた。

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 胃がんの進行度を表す病期は、がんの深さ(深達度)と、周辺のリンパ節、他臓器への転移の有無によって定まる。日本胃癌がん学会の胃癌治療ガイドライン第3版(2010年改訂)によると、症状が軽い方から1A〜4期に8分類され、病期に応じて治療法が決まってくる=図参照。

 リンパ節転移の可能性が極めて低く、粘膜層にとどまっている早期がんは、開腹せずに口から内視鏡を入れて切る内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)などの治療が可能。しかし「がんが深く進行、リンパ節に転移している場合などは、手術が最も有効な治療法」と、おおもと病院の磯崎博司院長は力説する。

 手術は、がんの位置や病期によって切除範囲を決め、胃や周辺のリンパ節を切り取る。胃の出口側を取り除く幽門側胃切除術が多いが、がんが胃の入り口・噴門に近い場合は胃全摘術や噴門側胃切除術が行われる。がんが広がっていれば、膵臓(すいぞう)や大腸の一部、脾臓(ひぞう)などを併せて切除することもある。胃の切除後は、十二指腸の切り口を閉じ、残った胃と空腸(小腸の上部)をつなぎ合わせる方法などで消化管を再建する。

 おおもと病院では10年、58例の胃がん手術を実施。腫瘍が4センチ以内の早期がんで注目されるのが、がんが最初に転移する「センチネル(見張り)リンパ節」の術中診断をもとに切除範囲を縮小する手術だ。

 がんは取り残しがあると、再発や転移を招く。それを防止するため、従来の早期がん手術では、胃の3分の2以上と、転移の可能性がある周辺のリンパ節を広く切除していた。しかし、切除範囲を広げれば本来の機能が失われ、術後のQOL(生活の質)に悪影響を及ぼす。

 噴門は食物の食道への逆流を防ぎ、幽門は十二指腸への流出を調節する。幽門を摘出すれば、食物が一気に腸に流れ、冷や汗、目まいといったダンピング症候群を起こす。噴門、周囲の迷走神経を切除すると、逆流性食道炎による胸焼け、下痢にさいなまれる。そうした後遺症を軽減するために、センチネルリンパ節生検を活用する。

 センチネルリンパ節は、がんから最初のリンパ流を受ける。このリンパ節を色素を使って術中に見つけ、採取し直ちに病理診断。その結果から転移の具合をつかみ、切除範囲の特定に役立てる。「転移がなければ胃の切除範囲を少なくし、噴門や幽門、迷走神経も温存できる」と磯崎院長。

 手術は全身麻酔をし、腹部を20センチほど切開するのに先立ち、内視鏡を口から胃へ挿入。がんの周囲4カ所の粘膜下層に色素を注入し、青く染まったセンチネルリンパ節を平均3、4個摘出する。凍結病理標本にし、顕微鏡で転移の有無を迅速に調べる。

 その間手術は続け、転移を防ぐため同リンパ節領域を取り除く。診断結果が判明し、転移なしと出れば小範囲、転移があれば広範囲切除を進める。手術時間は通常2時間、胃全摘術では3時間。2〜3週間で退院できる。

 胃がん手術数が千例超の磯崎院長は「手術は根治が第一」とした上で「術後のダンピング症候群や体重減少を抑えるため、センチネルリンパ節生検を用い、できるだけ機能温存に努めたい」と話す。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月05日 更新)

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