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胃がん(岡山済生会総合病院) 腹腔鏡手術 負担軽く回復早く

胃の構造

木村臣一外科主任医長

 開腹手術に対し、腹部に小さな穴を数カ所開け、手術器具を入れて行うのが腹腔ふくくう鏡手術。胃がんでは1991年、世界に先駆け国内で腹腔鏡補助下幽門側胃切除術が実施され、2002年から保険適用された。岡山済生会総合病院の木村臣一としかず外科主任医長は「痛みや体への負担が少なく、術後の回復が早い」と症例を重ねている。

 同病院では全身麻酔をし、おなかの5カ所を1〜2センチ切り、そこから腹腔鏡(小型カメラ)や手術器具を入れる。体内をモニター画面で見ながら、電気メス、鉗子かんしを使って胃や周囲のリンパ節を切除。残った胃と、十二指腸または空腸をつなぎ合わせ、その付近から体外へ腹水を排出するドレーン(排液管)を留置する。

 切り取った胃などを取り出すため、他にみぞおちを約5センチ切るが、開腹手術でおなかを20センチほど切開するのに比べれば格段に小さい。痛みや出血量が少なく、傷跡も目立たないうえ「腹腔鏡で患部を拡大して見られるので、より精密な手術ができる」という。半面、臓器に自由に触れられず、視野外の血管や臓器を傷つける恐れもあり、高度な技術が求められる。

 腹腔鏡手術は術者、助手、腹腔鏡操作と、計3人の医師の共同作業になり「チームワークがあって初めて成り立つ」と木村主任医長。手術時間は平均4時間20分と、開腹手術より1時間以上長くかかるが、在院日数は4、5日短く術後9〜14日程度で済む。

 近年、実施施設が増えており、岡山県内でも次第に普及。山陽新聞社が今年、県内のがん診療連携拠点病院に行ったアンケートでは、全7病院で実施していた=表参照。ただ、日本胃癌がん学会の胃癌治療ガイドライン第3版では、腹腔鏡手術は有望な治療法として期待される「臨床研究としての治療法」とされている。

 このため岡山済生会総合病院は実施対象を、内視鏡的粘膜下層剥離はくり術(ESD)の適応にならない早期胃がん▽筋層にわずかに浸潤した程度で、術前CT(コンピューター断層撮影)で明らかなリンパ節転移がない胃がん▽5センチ未満で、転移や他臓器に浸潤のない胃粘膜下腫瘍―に限っている。

 同病院では、腹腔鏡手術は02年ごろから早期胃がんで始め、07年から胃粘膜下腫瘍にも導入した。02年から11年6月末までの症例数=グラフ参照=は、胃がんが計110例、胃粘膜下腫瘍が計13例。09年以降は胃がん手術数の約2割を占め、後遺症防止のため胃の出口・幽門を残す手術も手掛けている。合併症は縫合不全、術中出血各1例など計6例で、死亡、再発例はない。

 木村主任医長は「安全、確実にがんを取り切ることが重要。腹腔鏡手術で開始しても、がんが予想以上に進行していれば開腹手術に切り替える」と話す。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月05日 更新)

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