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(16)妊娠初期の異常 川崎医大産婦人科学特任准教授 中井 祐一郎

妊娠12週の胎児(超音波画像)

妊娠成立から診断までの流れ

 なかい・ゆういちろう 1986年神戸大医学部卒。大阪市立大大学院医学研究科准教授などを経て2009年10月から川崎医大産婦人科学教室特任准教授。日本産科婦人科学会専門医、日本超音波医学会指導医(産婦人科)、日本周産期・新生児学会暫定指導医(胎児・母体)。

 この記事をお読みになる読者の方には、ご本人や奥さまがまさにその時期だとおっしゃる方もいらっしゃるかと思います。まずは、おめでとうございますと申し上げます。

 さて、妊娠・分娩(ぶんべん)という子孫を残す作業の第一歩である妊娠初期には、幾つかのトラブルが発生することがあります。ここでは、その代表的な問題である初期流産と悪阻(つわり)を中心にお話をします。

 妊娠初期流産の発生率は10〜15%程度と考えられていますが、妊婦さんの年齢の増加とともに頻度が増えます。原因は明らかでない場合も多いですが、流産例の半数程度に胎児の染色体異常が見つかるといわれ、妊卵(受精卵)そのものに原因があることが多いようです。妊娠した女性は、長期間にわたる活動力の低下とともに大きな身体的負荷を受けながら、胎児を育むのですから、より確実に子孫を残せるような妊卵を育てるという生存戦略が必要です。この点からみると、異常のある妊卵が流産に至るのは必然であるともいえ、治療が困難である一因といえます。

 実際の妊娠初期流産では、妊娠6〜7週ごろには超音波検査で確認できるはずの胎児心拍=表1参照=が見えず、胎児発育を認めないものが大部分です。いったん胎児発育が確認された後、心拍動が消失する例もありますが、妊娠中期=写真参照=に至ればこのようなことは、ほとんど生じません。妊娠週数は最終月経初日を0週1日として数えますが、排卵が遅れる場合も多いので、妊娠週数による胎児発育の有無の判断は、必ず主治医と相談してください。また、胎児が入っている胎嚢たいのうという袋自体も確認できない場合には、子宮外妊娠の可能性も考えられます。

 妊娠初期の少量の出血を切迫流産と診断することはありますが、妊娠初期の出血と結果的な流産とは、必ずしも直結するものではありません。出血などの症状に過剰に敏感になる必要はありませんが、無理することなく、胎児が育ってくることを待ってあげるのが一番かもしれません。

 不幸にして胎児が育ってこなかった場合には、将来胎盤となる部分と併せて自然排出されますが、長期にわたって内容物の排出がない時や多量の出血が持続する時もあり、子宮内容を取り除く処置が必要な場合もありますので、主治医の先生と相談をしてください。

 つわりは、その程度も期間も個人差が著しいものです。一般的には、妊娠5〜6週ごろから始まり、食事の臭いが気になる程度のものから、激しい嘔吐おうとにより食事は元より水分摂取すら不可能になる方までさまざまな程度があります。重症化して治療が必要な場合を悪阻といいます。軽いつわりならば半数以上の妊婦さんに起きますが、治療が必要な悪阻は1%以下です。その場合も、ほとんどは点滴による水や糖分の補給のみで治療可能であり、比較的長く続く妊婦さんでも、妊娠16週ごろまでに治まります。また、吐き気止めなどの薬物療法が行われることもあります。しかし、まれとはいえ、ビタミンB1の不足や肝臓などの重要な臓器に障害が生じて、命に関わることもあります。

 食事が可能ならば、食べたいものを食べたい時に…というのが原則です。食事内容が偏っても問題はありませんが、水分の摂取は心がけましょう。中には、普段好んで食べないものを欲しくなるという方もいらっしゃるようです。

 原因は絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピンやエストロゲンなどのホルモンの上昇によるとされていますが、それ以外の精神的な負荷による影響もあるかもしれないことは、経験的に知られています。女性であるがゆえに直面することとなった妊娠・分娩という大きな負荷を思えば、周りのご家族の皆さまも、妊婦さんの負担を共有しながら、分娩を目指して進んでいくという視点が必要でしょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月05日 更新)

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