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(7)肝炎の母子感染予防策  岡山大大学院医歯薬学総合研究科 産科・婦人科学教授 平松祐司

平松祐司教授

 産婦人科医が肝炎に関係するのは、術前検査と妊娠初期検査で、HBV(B型肝炎ウイルス)が体内にいることを示すHBs抗原やHCV(C型肝炎ウイルス)抗体検査が陽性になった場合が主な機会です。ここでは、特に母子感染について述べたいと思います。

 妊娠すると全員、妊娠初期検査でHBs抗原、HCV抗体のスクリーニングを無料で受けることになっています。これらが陽性に出たときは、産婦人科診療ガイドラインに沿って対応しています。

 まずHBs抗原が陽性になった場合は、HBV本体から出るHBe抗原・肝機能検査を行い、母子感染のリスクを説明し、内科受診を勧めます。そして、出生児に対しては「B型肝炎感染防止対策」を実施します。この感染防止対策を行えば、授乳を制限する必要はありません。

 妊婦さんでのHBs抗原陽性率は約1%であり、その約25%がHBe抗原陽性です。もし妊婦さんがHBVを保有するキャリアーの場合、感染防止対策をとらずに放置すると出生児の約30%がHBVキャリアーとなります。特にHBe抗原陽性の妊婦さんではハイリスクで、80〜90%がキャリアー化することが知られています。このため、必ず出生児に感染防止対策を施すことが重要で、これがきちんと実施されればキャリアー化阻止率は94〜97%とされています。

 次に、HCV抗体が陽性に出た場合の対応です。まずHCV―RNA定量検査と肝機能検査を行い、この定量検査が「検出せず」であれば母子感染の心配はないことを説明します。一方、定量検査が「検出」の場合は母子感染のリスクを説明するとともに内科受診を勧めます。そして、HCV―RNA量高値群の妊婦さんの分娩(ぶんべん)様式を決める際には、わが国の分娩様式による母子感染率を提示し、患者さんと家族の方と相談の上、分娩法を決定します。また、定量検査が「検出」の場合でも母子感染予防のために授乳を制限する必要はありません。

 わが国の妊婦のHCV抗体陽性率は0・4〜0・7%であり、その70%にHCV―RNAが検出され、さらにその約10%で母子感染が起こっています。感染のリスクファクターとしては、エイズの重複感染や、血中HCV―RNA量の高値などがあります。

 分娩時の母子感染は予定帝王切開例では、経膣(ちつ)分娩や緊急帝王切開より感染率が低いことが知られ、帝王切開で0%、経膣分娩で17%の報告があります。その理由としては、陣痛があると胎盤のバリアーが破綻し、母体血が臍帯(さいたい)を通じ子供へ移行することが考えられています。

 一方、帝王切開も手術ですので、ある程度のリスクは伴います。従って、帝王切開のリスクと感染のリスクを説明し、分娩法を決定するようにしています。もし母子感染したとしても、感染児の3割は3歳ごろまでに陰性化し、陽性の子ではインターフェロン療法で半数は陰性化できます。

 このようなガイドラインに基づいた母子感染予防対策を実施することにより、肝炎減少に貢献できると考えています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月19日 更新)

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