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(8)整形外科医の立場から 岡山済生会総合病院整形外科医長 近藤秀則

近藤秀則整形外科医長

 岡山済生会総合病院整形外科では原則、手術前に他の血液検査の項目と合わせてHCV(C型肝炎ウイルス)抗体検査、HBV(B型肝炎ウイルス)が体内にいることを示すHBs抗原検査を感染症のチェックとして評価しています。今春、肝がん撲滅に向けた岡山県医師会の座談会に整形外科医の立場で出席する機会があり、当科の状況を調査しました。

 2010年の1年間、当院整形外科で実施した手術は1483件であり、HCV抗体検査が陽性だったのは63件(4・2%)、HBs抗原検査が陽性だったのは11件(0・7%)でした。その内訳は男性が36人、女性が37人(うち1人は両検査とも陽性)で、男女差は認められませんでした。年齢別では、40歳以下が5人、41〜60歳が14人、61〜80歳が34人、81歳以上が20人であり、61〜80歳で最も多くなっていました。

 さらに、HCV抗体あるいはHBs抗原検査が陽性だった73人の患者さんの治療状況について、カルテ記載をもとに調査しました。結果は当院内科で25人、かかりつけ医のもとで21人が治療中でしたが、治療状況が不明もしくは治療ができていない患者さんは27人にも上っていました。

 本調査を行った時点では、当科にHCV抗体あるいはHBs抗原検査が陽性の患者さんに対する厳密な方針はなく、主治医の判断で対応していました。そのため、手術前のHCV抗体・HBs抗原検査が陽性で、当科から肝臓専門医に紹介となっていた患者さんは4人にすぎません。そのうち1人は肝がんの発見、1人は肝機能障害がきっかけとなっていて、症状が全くなく同検査陽性のみで紹介となっていた患者さんはわずかに2人だけでした。

 私を含め一般の整形外科医の多くにとって、手術前のHCV抗体・HBs抗原検査は、医師や看護師ら医療スタッフへの感染予防が主な目的です。同検査が陽性だったとしても、その結果をもとに肝がんの発症予防を目的とした肝臓専門医への紹介はほとんど行われていないのが現状です。

 しかし、先の座談会で肝臓専門医の先生方と話し合い、HCV抗体・HBs抗原検査が陽性の患者さんは、たとえ症状がなくても専門医による診療が必要であり、重要であることを認識しました。できることは限られますが、整形外科医も一人の医師として肝がんの発症予防に対して微力ながらも貢献すべきです。

 それには肝臓専門医との連携が不可欠であり、手術前検査などで発見されたHCV抗体・HBs抗原検査が陽性の患者さんに対する適切な対応が重要となります。当科では座談会後、肝臓専門医と相談し、同検査が陽性で、どの医療機関も受診していない患者さんはすべて肝臓専門医へ紹介することとしました。

 肝がん撲滅に向けては、肝臓専門医を中心に、HCV抗体・HBs抗原検査が陽性の患者さんに対する病院全体のルールを作ることが必要です。また、肝臓専門医が他科の医師へ、肝がんの発症予防について、一層積極的な働きかけをしていくことが重要ではないかと考えます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年10月03日 更新)

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