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脳死肺移植 年齢制限など“壁”撤廃を 岡山大病院大藤医師 指針見直し要望

岡山大病院入院棟付近を大藤チーフ(右)と散歩する男性。61歳で肺移植手術を受けても回復は順調だ

 家族承諾で脳死臓器提供を認めた改正臓器移植法施行(2010年7月)で急増する脳死ドナー(臓器提供者)。全国で多くの患者が無償の善意を受け、劇的な回復を遂げる一方で、60歳未満という年齢制限や、乳幼児の患者で体に合ったドナーが現れないといった理由から、脳死肺移植を受けられない患者も少なくない。肺移植に横たわる“障壁”に挑む岡山大病院(岡山市北区)の取り組みを追った。

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 「私は本当に運が良かった。手術を受けられ、感謝している」

 岡山大病院で5月、国内最高齢の61歳で脳死両肺移植を受け、3カ月後に退院した男性=中国地方在住=の顔には笑顔が浮かぶ。

 男性は1998年に肺気腫を発症。咳せきや息切れのため、酸素ボンベを持ち歩き、病院で人工呼吸器を装着した。発症から10年。移植しか治療方法がないと告げられた。日本臓器移植ネットワークへの登録準備が始まり、09年に登録された。

 この時、男性は「59歳」。これが脳死肺移植の可否を決める“境界線”だ。

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 脳死肺移植を受けるには病院内の判定委員会と中央肺移植適応検討委員会から承認を得た後、移植ネットへ登録する。

 だが、検討委員会の“通過”にはさまざまな制限が設けられている。その一つが、指針が定める「原則60歳未満」という条件だ。

 法改正で移植医療への注目が高まり、岡山大病院の大藤剛宏肺移植チーフには、60歳を超えた患者から問い合わせが相次ぐ。大藤チーフは法改正後、指針の「原則」という文言に望みを託し、患者数人の承認を求めた。だが、返事はいずれも「未承認」だった。

 一方、中国地方の男性は2年間順番を待ったが、61歳で移植。術後は至って順調だ。

 「世界に目を向けると、60歳以上の肺移植は全体の25%。術後の経過も50代以下と大差はない。一部の企業は定年を65歳まで延ばしており、60代はまだまだ『現役』。指針を見直すべきでは」と大藤チーフ。中央の検討委員会に嘆願書を出したが、依然として「原則」は変わっていない。

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 60歳以上の患者と並び、体の小さな乳幼児も深刻な状況にある。

 移植に最適なのは同じ体格の脳死ドナーから提供される臓器。法改正で15歳未満にも脳死臓器提供が認められたが、親の心情面などから、15日までに現れた15歳未満の脳死ドナーは少年1人(10歳以上15歳未満)だけ。

 さらに、技術的には可能な成人脳死ドナーの臓器を分割しての移植も、肝移植では行われているが、肺は関連学会の取り決めで認められていない。このため、乳幼児が登録しても順番が回ってくる確率は非常に低いのが現状だ。

 大藤チーフは、機能低下などの理由で脳死提供が見送られる肺の中には、正常な部分を活用できることがあると指摘。「すべての肺移植病院が肺全体の移植を断念した後に、肺の一部を再分配するシステムづくりを」とし、近く関連学会に許可を求める方針だ。

 生まれつき重い肺疾患に苦しむ女児(1)=九州地方在住=は、岡山大病院での移植を希望しながら自宅療養を続けている。

 母親(29)らによると、親族の血液型が不一致のため、生体移植は断念。岡山大病院で移植ネットへ登録し、「現実的とは思えないが」、順番を待つことにした。

 「こうしている間も病魔は娘の体をむしばんでいく。私たちには選択肢がない。何とか望みをつなげてほしい」。つきっきりで看病する母親は言う。その傍らの女児は小さな体で懸命に病気と闘っている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年10月17日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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