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(27)がん化学療法 川崎医大川崎病院 瀧川奈義夫教授・内科部長(48) 米国留学、抗がん剤に精通 放射線療法との併用で成果

瀧川教授は外来化学療法の患者に直接話を聞き、自分の目で効果と副作用を確かめるよう心がけている

 カーテンで仕切られたスペースに、折り重なるように点滴台が並ぶ。外来化学療法室の六つのベッドで点滴を受けているがん患者はみんな普段着姿だ。昨年、食道がん手術を専門とする猶本良夫副院長が開設し、瀧川が赴任して積極的に活用している。

 「家から通えるのが一番ありがたい」。2週間に一度、抗がん剤治療を受けている女性の表情は穏やか。寄り添う瀧川は「医師になったころは、何十回も吐き続ける患者さんの背中をさするくらいしかできなかった。ずいぶん化学療法も進歩しました」と振り返る。

 1988年、岡山大医学部第二内科(血液・腫瘍・呼吸器・アレルギー内科)に入局し、肺がん患者を中心に診てきた。外科手術の適応にならない進行がんの患者は、ほとんど1年持たずに亡くなる時代。積極的に手を差し伸べる内科医はごくわずか。奇特とも言える存在だった。

 しかし、第二内科の“ドン・キホーテ”は瀧川一人ではなかった。大熨泰亮(おおのしたいすけ)助教授(故人)は腫瘍内科医の育成に先駆的に取り組み、上岡博(現山口宇部医療センター院長)、木浦勝行(同岡山大病院呼吸器・アレルギー内科教授)らの先輩がいる。「治らないがんをいつかは治してやろう」。教室は熱い気概に満ちていた。

 通常の薬と抗がん剤の一番の違いは、効果と副作用の間の安全域。普通の薬は効果が発揮される投与量では副作用が出ないよう、広い安全域を設計する。ところが、抗がん剤は効果と副作用の現れ始める量が接近し、しばしば逆転する。副作用が出るのを承知の上で、効果を期待しなければならない。

 関連病院で臨床経験を積み、2000年に岡山大に戻ってきたころ、肺がんの化学療法に画期が訪れようとしていた。分子標的薬イレッサ(ゲフィチニブ)の治験が始まり、劇的に腫瘍を縮小させて「治る」患者が現れたのだ。

 なにしろ、呼吸困難で救急搬送され、肺の中が真っ白で見えなかった患者が、2カ月後にはほとんど影が映らないくらいに改善する。瀧川たちも目を疑うほど。イレッサは02年に世界に先駆けて国内承認され、「夢の薬」ともてはやされた。

 しかし、広く使われ始めると、予期しなかった事態が明らかになった。とてもよく効く患者がいる一方、あまり効かない患者も多い。副作用が少ないとされていたのに、重篤な間質性肺炎を起こし、命を落とす例も次々に報告された。

 実は当初、イレッサがなぜ効くのか、その仕組みは未解明の部分があった。瀧川は木浦や大学院生たちと一緒にマウスを使って研究し、がん細胞の増殖に深くかかわるEGFR(上皮成長因子受容体)に特定の遺伝子変異がある場合によく効くことを確認した。

 作用機序の解明により、「効きやすい人、副作用を起こしやすい人があらかじめ分かるようになり、自信を持って使えるようになった」と言う。

 イレッサのように“もろ刃の剣”となり得る新薬の開発は、おのずから処方する医師が抗がん剤の「プロ」であることを要求する。米国クリーブランドクリニックがんセンターに留学した瀧川は、外科医が手術を専門とするように、化学療法を専門とする腫瘍内科医たちに接し、目を見開かされた。

 帰国後、05年11月に行われたがん薬物療法専門医第1回試験に応募し、認定されたのは自然な流れだった。

 抗がん剤に精通しているだけではない。瀧川は岡大時代から放射線科医と協力し、化学療法と放射線療法の併用で成果を上げてきた。肺がんだけでなく、膵内分泌(すいないぶんぴ)腫瘍やまれな肉腫など治療困難ながんを勉強し、患者にメリットがあると考える情報を提供している。

 川崎病院でも診療科を超えて医師、看護師、薬剤師、放射線技師、栄養士らとチームを組み、意見を出し合ってがんに立ち向かう。

 「昔は医師が考えて指示するという形だったが、今は対等な立場で知識を共有し、総意に基づいて治療する。私はまとめ役です」

 瀧川たちがん薬物療法専門医がチームのハブ(車輪の中心)になろうとしている。 (敬称略)

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 たきがわ・なぎお 岡山芳泉高校、岡山大医学部卒、同大学院博士課程修了。国立療養所山陽荘病院(現山口宇部医療センター)、四国がんセンター(松山市)などに勤務後、米国クリーブランドクリニックがんセンターに2年間留学。岡山大学病院呼吸器・アレルギー内科助教を経て今年4月から現職。

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 がん薬物療法専門医 日本臨床腫瘍学会が2005年から認定している専門医資格。初期2年の臨床研修後に5年以上がん治療研究に携わるなどの条件を満たし、認定試験に合格しなければならない。今年7月現在約580人が認定されているが、岡山大出身の医師が40人余りを占める。

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 分子標的薬 従来の抗がん剤は細胞を殺す効果により、がん細胞と同時に正常細胞も傷つけてしまう危険性があった。分子標的薬はがん細胞の増殖や転移にかかわる特異的な分子を狙い撃ちし、正常細胞に影響しないように開発される。肺がん領域ではイレッサに続いてタルセバ(エルロチニブ)も承認されている。

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 外来 瀧川教授の外来診察は毎週月・水曜日午前の腫瘍内科専門外来(原則予約制)と木曜日の一般内科外来。セカンドオピニオンも随時受けている(予約制)。

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川崎医大川崎病院

岡山市北区中山下2の1の80

電  話 086―225―2111

ファクス 086―232―8343
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年10月17日 更新)

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