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(19)合併妊娠症 川崎医大産婦人科学教授 下屋浩一郎

 今回は合併症を有する方の妊娠・出産についてお話したいと思います。本シリーズ第15回「妊娠前に必要なこと」(8月1日付メディカ)とも関連しますので合わせて参考にしていただければと思います。

 出産年齢の高齢化はよく知られていますが、平成22年には全出産の約60%が30歳以上の女性の出産です。高齢化に伴って、母体に合併症を有するケースも確実に増加してきています。図1は女性の年齢ごとの高血圧および糖尿病の患者比率を示したものですが、年齢とともにいずれの疾患も妊娠の際に合併している可能性が高くなることが分かります。

 合併症妊娠では、(1)合併症に気付かれないで妊娠後に合併症が判明する(2)合併症があるという理由で妊娠の希望がかなえられない(3)妊娠中に合併症に応じた適切な治療が行われない―などといった問題が生じてくることがよくあります。

 合併症妊娠については、合併症が妊娠中の母体・胎児にどのような影響を及ぼすか、投与中の薬剤がどのような影響を及ぼすかという視点と、妊娠による生理的変化がどのような影響を及ぼすかという視点に立って妊娠経過を観察していく必要がありますが、基本的には治療の方針は妊娠の有無に関わらず違いはありません。

 薬物療法や手術も行いますが、薬剤の選択として妊娠への影響の少ないものをあらかじめ選択しておくことが大切です。ただし、注意する必要があるのは合併症があるからという理由だけで妊娠を断念する必要がある病気はごく限られていることを理解しておく必要があります。

 妊娠の継続の可否について考慮する必要があるのは、表1に示すような限られた病気であり、むしろ基本的には合併症のある女性こそ、できるだけ早く妊娠する方が有利であると考えられます。そして母児ともに無事に出産するために、妊娠中の母体管理として妊娠高血圧症候群発症に注意すること、早産・子宮内胎児発育遅延に注意すること、母体合併症によっては胎児成熟が確認された時点で分娩ぶんべんを考慮すること―などが挙げられ、胎児管理として妊娠32週から週2回の通院で児が元気であることを評価しながら妊娠経過を注意深く見守っていく必要があります。

 こうしたモニター管理の対象となるケースは表2のようにまとめることができます。合併症の状況によっては早めに分娩を考慮する必要がありますが、分娩方法は原則として経膣けいちつ分娩が選択されます。

 最近、世界的な多施設臨床研究結果をもとに妊娠糖尿病の定義が変更になりました。糖尿病は母児に大きな影響を及ぼすことが知られていてその影響は表3に示すように多岐にわたっています。診断基準の変更によって従来以上に多くの方が妊娠糖尿病と診断され、厳格な血糖管理を行うことによって母児の合併症の予防を軽減することができると期待されています。

 時代は変わっても妊娠は母児にとってさまざまな危険と隣り合わせである状況に変わりはありません。しかしながら、周産期医療の進歩そして内科、麻酔科、外科など多くの関連科の協力によって合併症があっても母子とも健康に退院していただけることが可能となってきました。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年10月17日 更新)

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