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子宮がん(上) 岡山大学病院 手術 妊娠、後遺症予防に留意

平松祐司教授

本郷淳司講師

児玉順一准教授

 年間死者が全国で5500人を超す子宮がん。子宮入り口の頸部(けいぶ)にできる子宮頸がん、胎児が宿る奥の体部に生じる子宮体がんに大別される。その診断、治療法などを、国内でもトップクラスの実績を持つ岡山大学病院(岡山市北区鹿田町)産科婦人科で聞いた。

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 岡山大学病院の2010年手術件数は子宮頸がん102例、子宮体がん62例。いずれも手術が治療の基本となるが「両がんで分けて考える必要がある」と平松祐司教授=産科・婦人科学=は語る。

 子宮頸がん 

 放射線療法、化学療法もあるが、手術が最も一般的。病期がII期までなら、子宮を取る単純子宮全摘出術、子宮を支える基靱帯(きじんたい)や膣(ちつ)の一部も含め取り除く広汎(こうはん)子宮全摘出術、両術の中間の準広汎子宮全摘出術などが適用できる。

 ポイントは妊孕(にんよう)性(妊娠できる機能)。若年者らが発症した場合、妊娠に必要な子宮を残せるか否かだ。

 0~Ia期の早期がんなら、子宮頸部の病変だけをレーザーや超音波メスで円錐(えんすい)状に1・5~2センチ切り取る「子宮頸部円錐切除術」=図参照=が可能。閉経後などでは通常、単純子宮全摘出術を選ぶが「将来妊娠を望む女性には円錐切除術を考える。妊婦でも施術できる」と平松教授。10年は91例に行った。

 Ib1期やIIa期でもがんが2センチ以下なら、子宮を温存する「広汎性子宮頸部摘出術」(10年1例)ができる。約10センチ開腹し、頸部を周囲の組織とともに大きく切り、子宮体部と膣をつなげる。だが「頸部がないため自然妊娠が難しく、体外受精をしなければならない例がほとんど」。流産や早産、再発リスクもはらむという。

 一方、同様な病期で用いられる広汎子宮全摘出術では排尿障害、下肢がむくむリンパ浮腫が起きやすい。このため基靱帯の摘出時にぼうこう神経を切断しないよう、脚付け根のリンパ節は取りすぎないよう、などと留意し機能温存に努める。

 同病院では円錐切除術は約15分で済み、入院は3、4日。単純子宮全摘出術のみは約1時間、広汎子宮全摘出術は4~5時間かかり、入院はそれぞれ8~10日、10~14日ほど。広汎性子宮頸部摘出術になると、手術は5~6時間、入院は約14日を要する。

 子宮体がん 

 手術が中心で、がんの病期と分化度(悪性度)から切除範囲を決める。子宮体がんは正確な診断が難しく、術前に推定される臨床病期に基づいて手術後、病理検査によって最終的な病期を決定。患者の状態、がんの広がりによって放射線療法、化学療法を追加する。

 I期までは単純子宮全摘出術と両側付属器(卵巣・卵管)摘出術を行うのが基本。女性ホルモンを分泌する卵巣切除は、ほてりなど更年期障害を招きやすいが「体がんの大半は腺がん。卵巣転移率が高いため摘出する」。

 II期以上に進行すると、病態に応じ単純、準広汎、広汎各子宮全摘出術と同時に卵巣、卵管、リンパ節切除などを実施。III、IV期で、がんを取り切れないと判断した場合、子宮とともにがんをできるだけ取る腫瘍減量術を行うこともある。

 妊娠の可能性を残したい人には「黄体ホルモン療法」がある。がんを殺す黄体ホルモン剤MPA(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル)を半年ほど服用し、子宮内膜を医療器具で全てかき取って治療効果を判定する。

 対象は、0期の子宮内膜異型増殖症(前がん病変)か、Ia期の「高分化型腺がん」に限られるが、同病院ではそれぞれ76%、55%で病変が消失した。

 しかし副作用に血栓症があり「脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすく、極度の肥満の人などは受けられない。出産には不妊治療を要することが多く、よく再発もする」という。

 岡山大学病院は婦人科腫瘍専門医5人を擁し、平松教授は「治療は専門医、設備が充実した施設で受けるのが原則。体への負担が小さいロボットによる手術を年度内にも、子宮がんでも手掛けたい」と話す。

 子宮頸がん予防 ワクチン接種と定期検診で 

 子宮頸がんは1983年に発見されたヒトパピローマウイルス(HPV)がほぼ100%原因となっていることが明らかになり、発がん過程解明は劇的に進んだ。ワクチンと検診で子宮頸がんは「予防」の時代を迎えつつある。

 HPVは皮膚や粘膜に感染し、いぼをつくったりする。約150種類の型が見つかり、うち15ないし16種類が発がん性高リスク型と分類されている。

 本郷淳司講師は「80%の女性は生涯に一度は感染し、20代では3人に1人が持っているほどありふれたウイルス」と言う。ただし、多くの場合、感染は一過性。「80%は自然治癒する。もし持続感染に移行しても、がん化するのはうち1・5%程度」と、感染を心配しすぎないよう強調する。

 HPVの二つのがん遺伝子が子宮頸部細胞の染色体に組み込まれると、異常な細胞増殖を抑えたり、傷ついたDNAを修復しているがん抑制遺伝子が働かなくなる。染色体自体も不安定になり、異常が蓄積してがん化が進行する。感染から発がんまでに8年から12年程度かかるとされる。

 子宮頸がん予防は、ワクチン接種と前がん病変を見つける定期検診のどちらもが重要。「ワクチンはすでにある病変を治すことはできず、主に二つの型のHPV感染を予防するもの。約70%の予防率と考えられる」と本郷講師は説明する。高リスク型HPVすべてを防ぐことはできず、検診を免除できない。

 今年7月にガーダシルが認可され、サーバリックスと合わせて二つのワクチンが使えるようになった。子宮頸がんを防ぐ効果はほぼ同等だが、ガーダシルは性感染症の尖圭(せんけい)コンジローマを起こすHPVも予防できるとされている。

 国は予防効果が高い中学1年から高校1年までを接種費用助成の対象としている。しかし、HPVは免疫をくぐり抜け、何度も繰り返して感染する。本郷講師は「高校2年以降でも、将来の感染を防ぎ、発がんリスクを下げる意義がある」と広く接種を勧める。

 検診では子宮頸部の細胞を綿棒などで軽くこすり取り、顕微鏡で観察する細胞診を受ける。もし異型細胞が見つかれば、コルポスコープという拡大鏡で表面を調べたり、組織を小さく切り取る組織診が行われる。

 前がん病変(異型上皮)があっても、軽度・中等度なら自然治癒する場合が多く、通常、頻回に検査しながら経過をみる。HPV遺伝子組み込みが起こる高度異型上皮に進むと自然治癒の確率は一段と低くなり、切除手術の対象になる。

 「20代の子宮頸がんが急増している。がんが進行するまで自覚症状は全くないので、20歳から30代までは年に一回、それ以降も2年に一回は検診を受けてほしい」と本郷講師は呼びかけている。

 子宮体がん診断 

 子宮体がんの検診は、子宮頸がん検診受診者の中で、半年以内に不正出血などの症状があることが分かった人に対して行われることが多く、大半は不正出血をきっかけに見つかる。児玉順一准教授は「月経が起こる子宮内膜に発生するがんであり、早期から症状が出る。不正出血があったらただちに受診してもらうのが早期発見のポイント」と呼びかける。

 以前は子宮頸がんに比べて少なかった子宮体がんだが、罹患(りかん)率、死亡率ともじわじわ増加。閉経後の患者が4分の3を占めるが、妊娠出産年齢の30代の患者も増えている。

 80~90%の子宮体がんには女性ホルモンのエストロゲンが関与している。エストロゲンの作用で増殖し、分厚くなった子宮内膜は排卵後、プロゲステロン(黄体ホルモン)の作用で増殖にブレーキがかかり、妊娠しなければはがれ落ちる。このホルモンの周期的なバランスが崩れることが原因になるのだ。

 「閉経周辺でプロゲステロンが分泌されなくなり、エストロゲンだけが働いて内膜が過剰に増殖を続ける子宮内膜増殖症になると、がん化が起こりやすいと考えられる」と児玉准教授は説明する。月経があれば内膜に異型細胞ができてもすぐにはがれ落ちるが、閉経後は異常が蓄積されていきやすい。

 従って、内膜の肥厚を確認することががんのリスク診断に役立つ。児玉准教授は「閉経後の内膜は通常数ミリ程度まで薄くなっている。経膣(けいちつ)超音波検査で厚みを調べ、おかしいと思えば細胞診や組織診を勧める」と言う。

 閉経前の30代でも、月経異常や排卵障害があればエストロゲンが優位になり、内膜増殖症を起こしやすい。また、エストロゲンは脂肪細胞からもつくられることが分かっており、肥満も要因になる。閉経後の女性と同様、内膜の状態に注意が必要だ。

 「内膜増殖症があれば、異型細胞が見つからなくても、がんを予防する目的でプロゲステロン製剤を投与し、周期的に月経を起こす治療も行われている」と児玉准教授は話す。

 子宮体部は広いため、一度の細胞診ではがん細胞が捕捉できない場合もある。細胞診を繰り返したり、子宮鏡のカメラで内部を観察、MRI(磁気共鳴画像装置)撮影など、いろんな検査法を組み合わせ、組織診で確定診断する。MRIは筋層へのがんの浸潤を確認するためにも有用とされている。

 一方、子宮体がんの10~20%はエストロゲンと関係なく、突然発がんする。高齢者に多く、悪性度が高いため、不正出血があった段階ではしばしば病期が進行している。治療の難しいがんだ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年11月07日 更新)

タグ: がんお産岡山大学病院

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