文字 

(20) 避妊 川崎医大産婦人科学教授 下屋浩一郎

 10歳で月経が開始して50歳で閉経を迎えるとすると約40年間女性は月経周期を有する、すなわち妊娠の可能性があることになります。お二人出産されるとすると妊娠の準備期間・妊娠期間・授乳期間等は長く見積もっても5年間で、残りの35年間女性は避妊を考慮しなければならないことになります。

 一方、女性が望まない妊娠をした場合には人工妊娠中絶を選択する必要が生じます。人工妊娠中絶は「人工的手段で意図的に妊娠を中絶させること」で基本的には刑法214条(堕胎罪)に触れる犯罪行為です。母体保護法にのっとり「母体の健康等を著しく害するおそれのある」場合に、母体保護法指定医師(産婦人科医)が本人とパートナーの同意を得た上で「中絶を行うことができる」とされています。

 人工妊娠中絶は女性にとって肉体的・精神的に大きな負担を強いることとなります。また、宗教的・倫理的論争となることも少なくない問題です。

 人工妊娠中絶件数は幸いにも減少傾向にあり、平成元年には46万6876件であったものが、平成21年度には22万3405件となっています。しかしながら、平成21年度の出生数が106万9千人であることを考えると依然として日本における人工妊娠中絶数が多いことが分かります。特に、10歳代と40歳代において人工妊娠中絶を選択する割合が高くなっています。

 平成21年度の日本の10歳代の人工妊娠中絶実施率(女子人口千対)は7・1となっています。ちなみに岡山県は全国平均より高い実施率となっています。

 避妊法として必要な要件をまとめたものが表1です。安全性や使いやすさのほかに女性が主体的に行えることも重要なことです。

 一般に避妊法として考えられている方法の避妊効果についてまとめたものが表2です。避妊をせずに1年間を過ごすと100人中85人の方が妊娠に至るとされています(残り15人の方が不妊症に相当します)。

 女性の避妊手術である卵管結紮(けっさつ)や男性の避妊手術である精管結紮は、避妊効果は高いですが、いったん手術をすると再度妊娠を希望しても再疎通手術等が必要であり、将来にわたって妊娠の希望が無い場合に限って行われます。

 避妊効果を見て驚かれる方も多いかもしれませんが、100%確実な避妊法というものは実は存在しません。避妊効果が優れていて一般に産婦人科医がお勧めする避妊効果の高い方法としては低用量ピル(OC)とIUD(子宮内避妊具)があります。

 日本で広く用いられているコンドームは避妊効果が高くないこともあり、世界的には本シリーズ第13回(7月4日付メディカ)で取り上げた「性感染症」の予防対策として重要なツールであると考えられています。

 IUDは子宮内に器具を挿入する必要がありますが、いったん挿入すれば205年程度継続使用することができます。

 OCは世界的には最も広く用いられている避妊方法ですが、日本では諸外国に比べて非常に使用率が低くなっています。副作用を心配される方が多いのですが、正しく用いると副作用の発現は実際には少なく、避妊効果の高さにより“望まない妊娠”を回避することができます。

 OCには表3のようなさまざまな副効用があり、特に月経にまつわる不快な症状のある方にはお勧めです。さらにOCを服用すると子宮頸(けい)がんの発生頻度がやや増加するものの、卵巣がん・子宮体がん・大腸がんの発症頻度が減少してトータルではがんの発生頻度が減少します。

 普段から避妊を考えておくことが重要ですが、コンドームの破損などで避妊に失敗した場合や性的暴力を受けた場合などの緊急避妊の方法についても知っておく必要があります。緊急避妊法として以前よりヤッペ法とよばれる72時間以内にホルモン剤を服用する方法が知られていましたが、本年から「ノルレボ」という緊急避妊用の薬剤が投与できるようになっています。また、ホルモン剤の服用ができない場合にはIUDを挿入する方法もあります。

 昨年の11月1日付から連載を開始した「女性の体 女性の病気」シリーズも今回のテーマ「避妊」をもって終了いたします。これまでの記事で少しでも皆さま方の女性の体と疾患に関する理解が深まっていただければ幸いです。女性のさまざまな疾患や悩みについて産婦人科医がアドバイスできることがたくさんあります。不安や悩みを抱えないで早めに産婦人科医に相談に行かれることで症状の改善や病気の早期発見につながります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年11月07日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ