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(1)妊娠前に行っておくべき検査 糖尿病、TORCH症候群 岡山大大学院産科・婦人科学教授 平松祐司

【表1】糖尿病合併妊娠の合併症

【表2】TORCH症候群の症状と赤ちゃんへの影響

 ひらまつ・ゆうじ 1951年生まれ。倉敷青陵高、岡山大医学部卒。同大大学院医学研究科修了。同大病院講師、同大医学部助教授、米ハーバード大ジョスリン糖尿病センター留学などを経て、2003年4月から現職。日本糖尿病・妊娠学会、日本産婦人科手術学会各理事長。

 妊娠中にある疾患が合併あるいは感染すると、お母さんおよび赤ちゃんにいろんな合併症が出ることがあります。元気な赤ちゃんを産むためには、妊娠前から正しい知識を身につけ備えることが必要です。これから妊娠を考えておられる女性、夫婦に知っておいていただきたい知識を数回に分けて説明したいと思います。

 まず、妊娠前に必ず調べておいてほしい検査がいくつかあります。その一つが糖尿病の検査です。特に糖尿病の家族歴のある人、肥満、35歳以上、以前の妊娠中に巨大児、羊水異常、妊娠高血圧症候群、原因不明の胎児死亡を起こした人などはぜひ検査を受けておいてください。赤ちゃんが欲しくて、不妊治療を受けられている人にも必須の検査です。

 糖尿病を合併していると、表1のような多くの合併症が起こります。この中でも最も重要な奇形については、血糖の管理が悪いほど高率に体の各臓器の異常が出現します。妊娠したら全員、糖尿病の検査をしますが、妊娠してからの検査では、結果が分かる頃には既にいろんな重要臓器形成の臨界期を過ぎてしまっているため、奇形は防ぎようがありません。逆に妊娠前に糖尿病の分かった人は、きちんと血糖管理した後に計画妊娠すれば、健康な赤ちゃんを出産することができます。

 もう一つはTORCH(トーチ)症候群という、トキソプラズマ、風疹、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなどに感染したかどうかの検査です。抗体を持っていない女性が妊娠初期にこれらに感染すると、胎児に異常が出ます=表2参照。例えば、妊娠16週以前に風疹に罹患りかんすると、先天性風疹症候群といって心奇形、白内障、難聴などが赤ちゃんに発生します。

 以前は中学生のときに検査し、風疹にかかったことのない人には風疹ワクチン接種をしていました。しかし、現在は実施されていないため、抗体保有率が低下し、妊娠時に感染しやすくなっています。妊娠前の風疹抗体値が分かっていれば、妊娠中に風疹のような症状が出た場合、採血しはっきりとしたお話ができますが、そうでないと判断が困難な事態が発生します。母親に以前自分が風疹にかかったかどうか確認し、かかっていないとき、あるいは不明の場合は妊娠前に検査を受けておきましょう。

 トキソプラズマ感染では、水頭症、小頭症、脳内石灰化、網脈絡膜炎、失明、てんかんなどの症状が出ます。猫を飼っている人に多いため、猫との接触は避けるようにしてください。サイトメガロウイルス感染は風邪によく似た症状であるため、発見が遅れることが多くなります。

 これまで説明したことを頭に置いて、妊娠前に検査を受け、抗体を持っていない女性はワクチン接種をした後に妊娠することをお勧めします。



 妊娠や出産は、さまざまなリスクを伴う。性感染症の怖さ、先天異常の予防法など、赤ちゃんを産む人が心得ておきたいことについて、岡山大医学部(岡山市北区鹿田町)の医師に寄稿してもらう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年11月21日 更新)

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