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(2)妊娠前に避けたい病気 性感染症 岡山大産科・婦人科学教授 平松 祐司

 性感染症のまん延、若年化が大きな問題になっています。性感染症については、岡山県においても6カ所の同じ病院での症例数を継続的に観察する定点観察が行われ、その動態が全国集計され報告されてきました。しかし、それだけでは不十分と考え、2002年から毎年3月、9月に岡山産科婦人科学会と岡山県産婦人科医会が協力し、岡山県の全産婦人科診療施設を対象に性感染症の調査を実施しています。

 今年3月までの集計4550例を分析すると、最も多いのは毎回、性器クラミジア感染症で65・0%を占めていました。以下、性器ヘルペス感染症(17・3%)、尖圭(せんけい)コンジローマ(10・6%)、淋菌(りんきん)感染症(10・6%)、梅毒(1・0%)の順でした。二つ以上の疾患の混合感染は186例(4・1%)にみられ、その86%は性器クラミジアがらみでした。

 年齢分布は別表の通り、10代、20代で65%を占め、生殖年齢の30代まで含めると実に89%を占めています。このように未婚女性、あるいは妊娠する年代の女性の感染が多いことが大きな問題です。この年代の女性が感染すると妊娠しにくくなり、赤ちゃんにも影響を及ぼすからです。職業別の頻度=グラフ1参照=をみると、学生を含む多くの職種の人で発見されています。また、性感染症の17・4%は妊婦で発見され、妊婦ではクラミジア感染によるものが79%を占めていました。

 クラミジア感染は、帯下(おりもの)の異常や下腹痛などのために検査し発見されます。子宮・卵管周囲の癒着を起こすと不妊症の原因になります。進行すると横隔膜と肝臓の間にも癒着を起こし、慢性の鈍い右上腹部痛を引き起こします。妊婦が感染すると絨毛(じゅうもう)膜羊膜炎を起こし、流産や早産の原因になることがあります。また、赤ちゃんが産道感染すると結膜炎や肺炎を発症します。

 性器ヘルペス感染症は女性の場合には外陰部、膣(ちつ)を中心として潰瘍、水疱(すいほう)を形成し、激しい痛み、鼠径(そけい)リンパ節腫脹(しゅちょう)、排尿痛、歩行困難などを伴います。妊婦が感染した場合、子供への影響もあるので注意が必要です。

 尖圭コンジローマは、外陰部、膣内にカリフラワーのような病変が多発します。淋病は男性では尿道炎、女性では子宮頸(けい)管炎を引き起こし、不妊症の原因になります。女性はほとんどの場合、無症状のことが多いですが、帯下の増加、膿(うみ)のような帯下、悪臭などで受診し発見されます。性行動の多様化により、口腔(こうくう)内からも30%の女性で淋菌が発見されています。

 性感染症の裏には、望まない妊娠も発生しており、特に10代の人工妊娠中絶は岡山県でも依然、年間400件以上行われています=グラフ2参照。中絶手術を繰り返すと治療しにくい子宮内癒着を引き起こし、不妊症の原因となります。

 岡山県においても関係団体が協力して性感染症撲滅運動を展開していますが、何よりも重要なのは本人が性感染症の怖さを知ることです。性感染症にかかると将来不妊症に結びつくことを認識して予防に努め、望まない妊娠も避けるようにすることです。また、性感染症になった場合はパートナーも一緒に治療を受け、二人とも完全に治るまで性交渉は避ける必要があります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年12月05日 更新)

タグ: 女性お産岡山大学病院

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