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(5)奇形防止のために 被ばくや薬服用避ける 岡山大産科・婦人科学教授 平松祐司

 わが国の周産期医療成績は、世界のトップにあります。妊娠22週から生後1週未満の間に児がなくなることを周産期死亡といい、2010年の周産期死亡は4・2(出産千当たり)です。この中で最も多い原因は奇形です。体の重要臓器の原基は妊娠初期に完成します=図参照=ので、妊娠12週くらいまでは放射線被ばくや薬の服用は避ける必要があります。

 奇形は染色体異常によるものが多く、これは予防できませんが、予防できる奇形もあります。一つは糖尿病であり、妊娠前から糖尿病の分かっている人は、妊娠前に血糖コントロールをし、計画妊娠することが必要です。糖尿病については、別の機会に詳しく説明します。

 二つ目は葉酸欠乏です。葉酸が欠乏すると、無脳症、脳瘤りゅう、二分脊椎といった中枢神経系の異常の頻度が増加します。この神経管の閉鎖は妊娠6週末に完成するため、妊娠してからの葉酸服用では遅すぎ、妊娠1カ月以上前からの1日0・4ミリグラムの服用が勧められています。

 不幸にしてこのような異常をもった赤ちゃんを出産した既往のある妊婦さんは、医師の管理下に1日4ミリグラムの内服が勧められています。また、てんかんなどがあって抗けいれん剤を内服している場合も中枢神経系異常が出やすいため、同様に予防的に同量の内服が勧められます。

 三つ目は放射線被ばくです。妊娠と知らずレントゲンやCT(コンピューター断層撮影)検査を受けないように注意しましょう。受精後10日目までの被ばくでは胎児奇形発生率は上昇しませんが、受精後11日目から妊娠10週までの被ばくは奇形を引き起こす可能性があります。しかし、被ばく線量が50mGy(ミリグレイ)未満では奇形発生率を増加させることはありません。従って、もし被ばくした場合は正確な妊娠週数と被ばく線量を確認する必要があります。別表に、各種検査でどれくらいの線量が当たっているかを示します。

 四つ目は薬の影響です。胎児へ影響を及ぼす薬もありますので、内服した時の正確な妊娠週数が大切になります。薬剤の内服が受精前から妊娠3週末までは奇形を引き起こしませんが、それ以降7週末までは奇形を起こす薬も少なからずあります。また、8週から12週までの内服では重度の大奇形は起こりませんが、小奇形を起こす可能性があります。12週以降では奇形は起こりませんが、胎児機能不全を起こす可能性のある薬があります。

 薬の種類は多いため、ここに記載することはできません。医師に相談するか、インターネットで国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」(http://www.ncchd.go.jp/kusuri/)で検索しましょう。また、同センターは妊婦さん自身の電話相談にも応じてくれます。

 いずれにしろ妊娠初期は、放射線被ばくや薬の内服は避けるように注意することが重要です。医療機関に行くときは、最後の月経がいつから始まったか、きちんと確認してから受診しましょう。また、妊娠月経といって、妊娠していても次の月経が始まる時期に起こる少量の出血、切迫流産による出血を月経と勘違いしていることもありますので、出血の量も正しく伝えるようにしましょう。妊娠が疑わしい場合は、レントゲン検査や投薬前に妊娠反応を確かめ、妊娠の有無を検査する必要があります
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年02月06日 更新)

タグ: お産岡山大学病院

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