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(6)妊婦と栄養 母児の健康に長く影響 岡山大産科・婦人科学教授 平松祐司

 妊婦さんの栄養状態は、自分自身の妊娠合併症の発生だけでなく、赤ちゃんにも影響を及ぼします。

 痩せた人、妊娠中の体重増加が少ない人では児体重は減少し、早産のリスクも上昇するとされています。先進国の中で、わが国のみ1980年代から10年に約100グラムずつ出生体重が減少しており、この原因の一つとして、わが国の若い女性の痩せ願望が指摘されています。

 逆に、太った人、妊娠中に過剰な体重増加をした人では児体重が増加する傾向があり、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などの合併症が増し、難産になりやすく、帝王切開率も高くなります。

 妊娠中の理想的な体重増加は、厚生労働省の妊産婦のための食生活指針「健やか親子21」では別表のように定められています。しかし、妊婦さんはつわりの時期に体重減少が起こり、また、赤ちゃんの体重は妊娠後半期に急激に増すため、単純に割り算して毎月の体重増加量を計算するのは困難です。このため、つわりの終わる妊娠16週ごろに体重の変化をチェックし、食生活の是非を評価してもらう必要があります。

 わが国の妊婦さんの栄養摂取の傾向として、摂取エネルギー量が少ないこと、カルシウム、鉄、ビタミンDが不足していることがあります。妊娠中はバランスの取れた食事をすることが大切であり、厚生労働省と農林水産省の指針=図参照=が参考になります。

 多くの妊婦さんが、つわりを経験しますが、つわりが激しく毎日嘔吐(おうと)し、5%以上の体重減少を伴ったものは妊娠悪阻(おそ)と呼ばれます。妊娠悪阻が続くとウェルニッケ脳症といって、眼球運動障害、歩行失調、意識障害などが起こります。これはビタミンB1不足によって生じる重篤な病気のため、つわりが激しい場合は早めに産婦人科を受診し、点滴、ビタミン補給を受ける必要があります。

 その他のつわり対策としては、明け方の空腹時に起こりやすいため夕食を半分に分け就寝前に食べる、水分補給、マルチビタミン補給、便秘を避けることなどがあります。

 以前から巨大児では、将来、肥満、糖尿病、メタボリック症候群などになりやすいことが知られていました。これに加え、最近では2500グラム未満の低出生体重児で生まれた人は、年を取ってから虚血性心疾患、糖尿病、メタボリック症候群などが増すことが注目され、大きな問題になっています。さらにその影響は、小学生あるいは3歳児健診時にも出始めていることが分かり、注目されています。

 グラフは、出生時体重と小学生の時の2型糖尿病の発生率についての報告です。このグラフから分かることは、出生時の体重が平均的なものが最もよく、大きくても小さくても糖尿病発症リスクが増すということです。

 わが国では、小さく産んで大きく育てるといった言葉がありますが、小さい赤ちゃんを急激に大きくしようとすると、糖尿病や高血圧のリスクが増すことも分かってきました。それを回避する方法として、母乳哺育が再注目されています。

 このように妊娠時の栄養は、母児の健康に長期にわたり影響を及ぼすため、妊娠を計画している人は妊娠前から食事に気を付け、普通の体重の元気な赤ちゃんを産むよう心掛けましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年02月20日 更新)

タグ: お産岡山大学病院

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