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(1)学習障害―読み書き障害について 岡山大学病院小児神経科助教 岡牧郎

読みに関係する脳の領域(サリー・シェイウィッツによる)。赤は頭頂側頭領域、黄は後頭側頭領域、緑は下前頭回

 おか・まきお 操山高、香川医科大(現・香川大)医学部卒。岡山大大学院医学研究科修了後、2006年4月から岡山大学病院小児神経科助教。小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。

 「頑張っているのに勉強が極端にできない」。このように困っている子どもたちは多いと思います。この中には学習障害の子どもたちが含まれているかもしれません。

 学習障害とは、知的能力や視覚、聴覚には問題はなく、勉強する教育的環境が十分に整っているのにもかかわらず、読み書きや計算などに不相応な遅れがみられる状態を言います。今回はその中でも「読み書き障害」について述べたいと思います。

 読み書き障害にみられる特徴を表に示しました。該当する項目が多いほど、読み書き障害の可能性が高いと考えられます。日本では100人に1〜3人は存在すると考えられています。

 基本的にかな文字は一文字が一つの音に対応しており、これを認識することから読み書きが始まります。多くの子どもたちは就学以前からできるようになりますが、読み書き障害の子どもたちではこの能力に問題があることが広く知られています。そのため、読みでは文字を音に変えられない、流暢(りゅうちょう)に読めないなどの問題が生じます。原因はこれのみではなく、字の形態を捉える能力に問題がある場合や、学んだことを頭の中にいったん記憶して保持する能力(ワーキングメモリ)に問題がある場合、注意や集中に問題がある場合などさまざまです。つまり、これらが関与する脳の領域の働きが弱いことが読み書き障害を引き起こしているのです。決して本人の勉強不足や親の指導力不足が原因ではありません。

 読み書き障害に関係する認知機能についてはまだ明確でないことが多く、これを検討することが私たち医師の研究のテーマの一つです。一見すると怠けて見える子どもでも、これらの能力の弱さのために、「やりたい」と思っても「できない」ことがあることを周りの者が理解する必要があります。基本的な対応としては、それぞれの能力や特性に合わせた指導が重要になります。家庭では語彙ごいを増やすための読み聞かせや音読の練習が有効な場合があります。この場合、間違えても強く叱らずに本人の意欲を維持することが必要です。イラストを用いたりクイズ形式にするなど、楽しく勉強する方法が見つかると良いと思います。

 読み書き障害の診断は就学後につきます。それ以前に強く疑うことは困難ですが、文字への関心が乏しいことに気づかれることがあります。言語発達(有意語や二語文などの出現時期)も含めて、幼少期の様子をよく観察しておくと良いでしょう。私たちの病院では、知能検査などに加えて読字検査、書字検査を行います。読字検査はかな単音、かな単語、短文からなり、音読時間や読み誤りのパターンなどを分析します。その他、必要に応じて他の認知機能検査も行っています。診察の結果は保護者の了解のもとに可能な限り学校に知らせ、その子どもの学習の向上のために情報を共有することにしています。

 また、私たちの最近の研究から、小学生以上で知的障害のない広汎性発達障害(自閉性障害、アスペルガー障害など)の子どもたちの約26%、注意欠陥多動性障害の子どもたちの約44%に読み書き障害を認めることが明らかになりました。この子どもたちは主に行動面や社会性の問題から病院を受診していましたが、実際には学習困難も抱えており、日常生活をさらに悪化させている可能性が考えられます。学習面の評価を行うことは、発達障害の診療をする上で非常に重要です。

 小学校では、かな文字の読み書きに続いて漢字の読み書きが始まり、その後は文章理解や文章作成をしなければなりません。読み書きが困難であると、国語だけでなく算数など他の教科にも影響します。低学年から勉強につまずいた子どもたちは、学校生活全般の意欲が減退して自信をなくし、不登校などの二次的な問題をきたすことがあります。小学校高学年になると本人が勉強を嫌がり、「できない」から「やらない」に変わることもしばしばです。このため、なるべく早期に発見して適切な指導を加えることが必要です。

 勉強がわかった、できたという成功体験は、子どもたちの将来の人格形成に大きく影響します。子どもたちが楽しい学校生活が送れることを私たちは願っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年02月20日 更新)

タグ: 子供岡山大学病院

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