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(2)注意欠陥/多動性障害の医学と教育 岡山大大学院教育学研究科発達支援学教授 眞田敏

【図1=前頭連合野とノルアドレナリン経路およびドパミン経路】前頭連合野がプランニングやワーキングメモリなどの実行機能を担っている。AD/HDはノルアドレナリンやドパミンなどによる神経伝達がうまくできないため実行機能に問題が生じる

【図2=各種発達障害とストレスによる二次的な問題】広汎性発達障害、学習障害、発達性協調運動障害などが併存することは、まれではなく、これらの障害は、環境からのストレスによって二次的な問題をひきおこすことがある

 さなだ・さとし 修道高、関西医科大卒。ベルリン自由大学研究員、岡山大学病院小児神経科講師、同大教育学部准教授・教授などを経て、2008年から現職。小児科専門医、小児神経科専門医。

 「忘れ物が多い」「注意が持続せず、簡単にそれる」「大事な情報を覚えていることができず失敗する」「じっとしていることが難しい」「手足がそわそわする」「しゃべりすぎる」「順番を待つことが難しい」。このようなことが学校生活での失敗につながる子どもたちがいます。この中には注意欠陥/多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder:AD/HD)の子どもたちが含まれているかもしれません。

 AD/HDは、自閉症やアスペルガー障害などといった広汎性発達障害や学習障害、折り紙やボール投げがうまくできないといった発達性協調運動障害などとともに、発達障害のひとつとして注目されています。近年、自閉症や学習障害をともなう子どもの場合、特別支援教育を受ける機会が増えてきていますが、AD/HDをともなう子どもの多くは通常のクラスで教育を受けています。

 AD/HDの主な症状は「不注意」「多動性」「衝動性」で、前述のような症状が7歳までにあらわれ、二つ以上の状況(例えば学校と家庭)で顕著かつ頻繁にみとめられますが、これらの症状のうち、どの要素が著しいかによって不注意優勢型、多動性―衝動性優勢型、混合型の三つのタイプに分けられます。

 AD/HDにこのような症状がみられる原因として、前頭連合野を中心とする領域で、ノルアドレナリンやドパミンなどによる神経伝達がうまくできないため、実行機能に問題が生じるものと考えられています=図1参照。実行機能は、目的の達成に向けて計画を立て、適切かつ柔軟に処理を進めていく機能とされ、プランニング(計画)、ワーキングメモリ(課題処理に必要な情報の一時的な記憶)や不適切な反応の抑制といった制御・統合機能で、前頭連合野が担っています。

 このような問題から、判断の切り替え場面、一度に複数の用件の処理が求められる場面や課題が複雑な場面などで、適切な対応が困難になり、学校生活での失敗が多くなります。その結果、挫折感や屈辱感を味わうことが多くなりますが、このようなことは、周囲からは、怠け、わがままやしつけの問題によるものと誤解されやすく、叱責しっせきされ否定的な評価を受けやすく、自尊心の低下や二次的な問題に発展することがあります。

 また、広汎性発達障害、学習障害や発達性協調運動障害などの併存もまれではなく、これらのいずれも、環境からのストレスによって二次的な問題を生じやすいため、AD/HDのみならず、発達障害をともなう子どもへの支援では、臨床特性への理解とともに、二次的な問題の予防を視野に入れて取り組むことが重要と思われます=図2参照。

 AD/HDの治療には「薬物療法」と「教育・療育的支援」があります=表参照。まず「薬物療法」についてですが、これは、前述の前頭連合野を中心とする領域でのノルアドレナリンやドパミンなどによる神経伝達の働きを薬で改善させる治療です。多くの方に有効ですが、食欲不振や不眠などの副作用がでることがありますので、小児科・小児神経科や児童精神科などの専門医に相談することをお勧めします。

 「教育・療育的支援」には、子どもの生活環境から不要な刺激を減らし課題に集中しやすい環境を整える「環境調整」、集団での自己コントロールやコミュニケーションを教える「ソーシャルスキルトレーニング」や「トークンエコノミー」などがあります。「トークンエコノミー」は、あらかじめ子どもと約束した特定の望ましい行動を実践した場合に、わかりやすくほめると同時にトークン(シール、スタンプや得点など)を与え、適切な行動を認識させるとともに、自信とさらなる動機づけを高めることを目的とするものです。最後に、望ましい行動をほめる・励ますなどの対応も有効ですので、タイミングよく『ほめる』ことを忘れないようにしたいものです。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月05日 更新)

タグ: 子供岡山大学病院

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