文字 

(8)妊婦と感染症 母児対策にワクチン接種 岡山大産科・婦人科学教授 平松 祐司

 妊娠中の感染は赤ちゃんへの影響が出るため、妊娠の各時期でいろんな検査が行われます=表参照。まず、妊娠初期に行う検査の説明をします。肝炎に関しては、B型肝炎ウイルス(HBV)が体内にいることを示すHBs抗原と、C型肝炎ウイルス(HCV)抗体を測定します。

 HBs抗原陽性の場合は、B型肝炎ウイルス本体から出るHBe抗原検査と肝機能検査を追加し、出生児に対してはB型肝炎感染防止対策を行います=図参照。HCV抗体陽性の場合も母児感染対策が問題になり、HCV―RNA定量検査と肝機能検査を行い内科へ紹介します。また赤ちゃんへの感染予防のために、分娩(ぶんべん)方法について妊婦さん家族と話し合いをします。

 梅毒のスクリーニング(ふるい分け)検査も必須で、梅毒陽性の妊婦さんに対してはペニシリン治療を行い、児への感染を予防します。エイズウイルス(HIV)検査も妊娠初期に行いますが、スクリーニング検査で陽性の場合も、疑陽性が多く95%の人は感染していないことが報告されているため、確認試験を実施します。

 成人T細胞白血病に対するHTLV―1抗体検査も妊娠30週ごろまでに行います。キャリアー(持続感染者)では、母乳を介した感染予防の観点から(1)人工栄養(2)一度凍結させた母乳による栄養(3)短期間(3カ月以内)の母乳栄養―などが勧められています。

 赤ちゃんに感染や奇形を起こしやすいTORCH(トーチ)症候群については、本シリーズ初回(2011年11月21日付メディカ参照)で説明しました。この中で風疹は、妊娠初期の発熱、発疹、頸部(けいぶ)リンパ節腫大などがあれば疑います。また、猫を飼っている人は原虫の一種、トキソプラズマの検査を受けましょう。

 妊娠33〜37週で行う検査に、B群溶血性レンサ球菌(GBS)の検査があり、綿棒で膣(ちつ)、肛門周囲から検体を採取します。GBS陽性の場合、児に感染し肺炎、敗血症、髄膜炎などを発症し、児死亡や後遺症の原因になります。このため妊婦さんがGBS陽性やGBS検査を受けていないケース、上の子がGBS感染症の場合は、経膣分娩中あるいは破水後に母体にペニシリン系薬剤を投与し、赤ちゃんへの感染を防ぐ必要があります。その他、妊娠中は真菌のカンジダの感染や細菌性膣症も起こります。

 インフルエンザは毎年流行し、高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などを発症するため注意してください。インフルエンザワクチンは母体や胎児への危険性が妊娠全期間を通じて極めて低いと考えられており、ワクチンを希望する妊婦さんへの接種が行われます。また、罹患(りかん)した場合には抗インフルエンザウイルス薬が投与されます。

 水痘も感染しやすいので、感染やワクチン接種をしたことがない妊婦さんは水痘患者との接触を避ける必要があります。妊娠初期には1・55%、中期では1・4%の赤ちゃんに先天性水痘症候群が発症します。このため妊娠前のワクチン接種が勧められます。

 他のワクチンの妊婦さんへの接種は、生ワクチンは禁忌、より安全性の高い不活化ワクチンは可能ですが、副作用以上に高い効果が見込まれる場合に使う「有益性投与」になっています。従って妊娠前に自分の母親にも尋ね、今まで何に感染したか正確に把握し、できるだけワクチン接種をしておくことが大切です。そして、接種後数カ月は避妊しましょう。

 妊娠中は免疫力が低下しています。人混みを避ける、外から帰ったらうがいと手洗いをしっかり行い、感染しないように注意してください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月19日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ